第1回 インクルーシブ教育を考える学校管理職研究会〜教育的ニーズの多様化に応える学校支援体制のあり方とは〜
特別支援教育の推進を加速させるため、さまざまなテーマで開催してきたLITALICO主催のオンラインセミナー。管理職の先生を対象としたセミナーは、今回が初! 多様なニーズを持つ子どもたちを支援するために必要なこととは? 全日本特別支援教育研究連盟研究部長の山中ともえ先生、埼玉県戸田市立芦原小学校校長の山下理恵子先生、大阪府堺市立泉北高倉小学校校長の米川潤先生の3名が登壇してくださいました。
実行力のある特別支援教育体制の構築のために
多くの管理職の先生が参加された本セミナー。全日本特別支援教育研究連盟研究部長であり、前東京都調布市立飛田給小学校校長の山中ともえ先生による基調講演では、特別支援教育を土台とした学校経営のあり方について、先生の経験に基づく実践的なお話をいただきました。
校内支援体制の組織化
特別支援教育は、担当の先生が異動になったら大きく方針が変るようなものではいけません。属人化を避けるためにも、学校ごとに、実情に合わせた組織化、システムづくりが重要だと山中先生は指摘します。
「いちばんの土台は通常の学級における全体的な配慮や指導ですね。その上に個別的な配慮や指導などが、段階的に積み重なっていきます」
支援体制の組織化のために重要なのが、役割分担の明確化です。
山中先生は、特別支援教育部を発足させ、どんな仕事を誰が担当するかを表す分担表を作っていたそうです。
「教職員はもちろんのこと、特別支援教育支援員、スクールカウンセラー、ボランティア、地域のかたと協力する際にも、誰が中心となって、それぞれがどのように関わるかを決めておきます。関わる人が増えるほど、役割分担を明確化することが大事。これは管理職の仕事だと思います」
支援を途切れさせないためのルールづくり
特別支援教育に関して、年間を通してどのような業務があるか、年間計画として示すこともシステム化の1つです。
「いつ、何をするかを分かりやすくまとめておくと、特別支援教育コーディネーターが変わったり、管理職が異動したりしても計画を継続できますね。1回作れば、修正しながら毎年引き継いでいけます」
個別の教育支援計画、指導計画も同様に、進級や進学の際にきちんと引き継がれることが重要です。
「学校の中でルールができていないと、進級したらうまく引き継がれていなかった、ということも起こりえます。活用、管理のルールを決めることが大切です。LITALICO教育ソフトは、アセスメントの助けになるのはもちろんのこと、データとして構築され、引き継ぎができることにも意味があると思っています」
特別支援教育の学校経営計画への位置付け
山中先生が勤務されていた学校の学校経営計画は、大きく「知育」「徳育」「体育」に分けられます。山中先生は、特別支援教育は、その3つすべての土台にあるものだと強調します。
「特別支援教育に取組むことが、多様性の尊重と個別最適な学びにつながっていくと思います。障害といっても、かならずボーダーの子もいます。また障害だけでなく、貧困や国籍、ジェンダーなど、子どもたちが持つ多様なニーズをすべて含めて理解していくことにも、特別支援教育は寄与すると思っています」
いろいろな人がいるということを、子どもも、家庭も、そして地域の人々も理解できること。それが共生社会への鍵となります。多様性を尊重する学校経営をしていくためには、単発的な取組みで終わらせないことが重要です。
「小学校であれば1年から6年までを通して、どんな活動をするかを段階的に計画します。特別支援学級との交流及び共同学習を充実させていくこともその1つです。お互いの関わりが深まるような計画を立て、実行していければ、それが将来のインクルーシブ教育につながっていくと思います」
「特別でない特別支援教育」を実現する組織づくり
埼玉県戸田市立芦原小学校 校長の山下理恵子先生からは、学校づくりの中で意識している特別支援教育について、お話しいただきました。
山下先生と特別支援教育の出会いは、市の教育委員会に入られたのがきっかけ。続けて平成25年に県の特別支援教育課でインクルーシブ教育推進担当になり、計5年間特別支援教育に係る仕事を担当したことがスタートです。ただ、小学校で通常の学級の担任をしていたときも、多様な子どもたちにどんな指導をしたらいいか、悩んだ経験があったと振り返ります。そして、特別支援教育について知る中で、実態把握とその子に合った「入り口」を探すことの大切さを痛感したといいます。
「私は特別支援教育の専門家でも実践者でもありませんが、特別支援教育を知る者として、支援が必要な人たちを包み込むような理解のある人材育成を進めていこうという想いを強くもち、小学校に戻りました」と山下先生。
現任校の芦原小学校は特別支援学級の設置がない学校ですが、山下先生は特別支援教育を常に念頭に入れ、学校経営を行なっています。その取組みをご紹介いただきました。
共生社会の形成者を育成する
「共生社会の形成者の育成」、これは山下先生が校長として赴任した学校において、目指す学校像にかならず入れるキーワードです。
しかし、そのアプローチ方法は、学校や子どもたちの実態によって異なる、といいます。
山下先生は、芦原小学校に通う子どもたちは言語能力が高く、家庭でも大切に育てられていることが感じられる子が多い、と分析します。一方で、大人に期待される言動を探ろうとする様子も感じたといいます。
「『芦原っ子』が持っている力をもっと伸ばし、自信をもって主体的に学び考え、行動する姿に変えていく。そのために、学校・学級がすべての子どもにとって安心して力を発揮できる場所にする。このように方向性を定めました」
山下先生が大切にするのは、すべての子どもが参加でき、達成感を味わうことができる授業づくり、そして多様性を受け入れる学級づくりです。キーワードは「ふろしきで包む」。
先生が目指す理想の箱に子どもたちを押し込めるのではなく、多様な子どもたちをそっと温かくふろしきで包み込むようなイメージです。
そして、子どもたちには「ふろしき忍者になろう」と話しているそう。
「『いろんな人を自然に包み込めるような忍者になってほしい。みんなで温かい学級をつくり、将来は誰でも自分の力を発揮できるような共生社会をつくる一員となってほしい』、と話しています」
山下先生自身も、いちばん大きな風呂敷で学校を包み込む管理職になることを宣言しているそうです。「これを宣言するには、正直、勇気がいりました。校長になって5年ほど経って、やっと言えた言葉です」
ICTを活用して、学習方法に選択肢を
授業づくりにはICTを積極的に活用しています。GIGAスクール構想の端末を活用し、子どもたちが学びやすい環境づくりに力を入れています。
書くことが苦手な子も、タブレット入力なら負担感がなくチャレンジできることも。また、共同編集機能を使って、ほかの子の意見や考えを目にすることで、自分の考えをより深めていく姿も見られるといいます。
ICT偏重ではなく、入力が苦手な場合は紙に書くことも選択できます。
インクルーシブ教育プロジェクトで実践を分かち合う
芦原小学校では、「インクルーシブ教育プロジェクト」を立ち上げ、現在3年目を迎えます。
「1年目は、支援が必要な子どもがいることに気づく力をつけようと、専門家による観察と見立てを学ぶことを繰り返しました。2年目はケース会議を継続しながら、ミニ研修を実施。3年目の途中からはLITALICO教育ソフトが導入されたので、実際の実践を共有しあう流れになっています」
プロジェクトに参加する先生からは「子どもたちの成長、できるようになったことを分かち合えるプロジェクトっていいね」という声が上がるほど、プロジェクトは活気と熱気に満ちたものになっているそう。山下先生を中心に、温かな学校づくりが進んでいる様子が伝わりました。
「学校群」でのLITALICO教育ソフトの実践活用例
大阪府堺市立泉北高倉小学校 校長の米川潤先生からは、「学校群」としての取組みが紹介されました。中学校1校、小学校2校が、子どもたちの個別最適な学びを保障し、多様な個性を最大限に活かす共同的な学びの場となるために協働されています。
誰一人取り残さない教育のために
プロジェクトは、3校にとっての共通課題を洗い出すところからスタートしました。働き方改革の視点から、教職員にとって過度な負担にならないことも重視したといいます。
さまざまな課題を挙げていく中で、3校に共通のものとしてまとめられたのが以下の2点です。
・支援を要する児童生徒の増加に伴う教育的課題の多様化
・教員の特別支援教育に対する指導力向上への取組みの必要性
文部科学省から特別支援教育に関する各種通知や報告が出される中、専門的知識の重要性の高まりに応えることは大きな課題として挙げられました。
そこで学校群としての教育目標を「人権意識を高く持ち、特別支援教育を通して、児童生徒の自己肯定感や他者への思いやりの心を育てる」と定め、教育重点目標は「特別支援教育の視点に立った誰一人取り残さない教育の実施」としました。
この目標を実現するために取組んでいるのが、支援の視点に立った授業の改善と、教員のアセスメント能力向上の2点です。
LITALICO教育ソフトを活用して標準化を図る
「教員のアセスメント能力の向上は、個別最適な学びのベースです。アセスメントが、担当する教員の力量に左右されることは芳しくありません。そこで導入されたのが、LITALICO教育ソフトです。私の第一印象は、個別の指導計画の作成から教材の提示まで、特別支援教育の一連の流れをカバーした、とても優れたソフトだ、ということ。客観性のある、統一された水準で支援ができ、支援を必要とする子どもにとって有効な手立てだと感じています」
教育ソフトを活用している先生からは「保護者との懇談の際、苦手分野をどうしていくのか話し合いやすくなった」「教材についているごほうびメダルが、学習意欲の維持につながった」「一人ひとりの子どものことを、多面的・多角的に見つめ直すことができた」といった声が寄せられているそう。
米川先生は、教育ソフトをで作成した個別の指導計画等を教育委員会が採用できれば、さらなる効率化につながる、と指摘します。
「教育行政と一体になった取組みの推進が大切です。特別支援教育の質が向上していくことは、すべての子どもたちにとって大切なこと。ぜひ推進を加速させていってほしいと願っています」
<ご案内>
特別支援教育に携わる先生方をサポートするために開発された「LITALICO教育ソフト」は学校全体の特別支援教育を充実させるためにも活用されています。
「LITALICO教育ソフト」について気になる方は下記問い合わせ先よりお問い合わせくださいませ。
TEL 050-3138-4614(平日9:30-17:30)Mail iep_sys4school@litalico.co.jp
HP https://s-edu-soft.litalico.jp/
お問い合わせ先
TEL 050-3138-4614(平日9:30-17:30)
Mail iep_sys4school@litalico.co.jp
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