香川、ネット・ゲーム学習シート(中学生版)について。今後、この手の学習ツールを作ろうとする場合の注意点。
香川県では「ネット・ゲーム依存予防対策学習シート」を作って学習しているそうです。
これがそれ↓
https://www.pref.kagawa.lg.jp/kenkyoui/gimukyoiku/syokai/sonota/internet/gakusyusheet.html
その中学生版を覗いてみました。
https://www.pref.kagawa.lg.jp/documents/17874/cyugakkou_worksheetr5.pdf
まあ、批判が多かった、文科省の『「ギャンブル等依存症」などを予防するために』みたいなもので、物質(薬物)使用障害と行動嗜癖障害(行動嗜癖そのものは障害ではない)を同じロジックで説明する荒業を継承しているってところだと思いました。相関と因果をごちゃまぜにしたり、ドーパミンの分泌そのものが危険であるような説明をしたり、科学教育としてどうかと思った次第です。以下、特に気になった点の雑感。
参考②ゲーム症 ここでの定義はICD-11(WHO)*によるもの。これら4項目すべてが満たすときと明記したほうがいい。
⇒Q3のチェックリストはICD-11に基づいたものではない。ICD-11の定義を示しYoungの尺度でチェックさせるのはまちがい。Yougのものはハマる過程重視で5点ではICD-11の4項目すべてを満たさない。フルマークでICD-11基準に近い。ICD-11ならせいぜい危ない遊び方。「症」、疾病、障害ではない。
*ICD-11 https://icd.who.int/browse11/l-m/en#/http://id.who.int/icd/entity/1448597234
6C51 Gaming disorderでは2022年2月以降Diagnostic Requirements Essential (Required) Features が記載されこれまで以上に厳密にゲーミング障害を定義している。またここにいたらないゲーム問題はHazardous gamingとしてゲーミング障害と呼んではいけないとしている。症、疾病、障害ではない問題を日本では一括して「依存症」とよんでいる。
参考②Yaoのレビューからの図。ゲーミング障害の人とそうでない人の脳の厚みの差の図。研究スタイルがワンショットなのでゲームをすればこうなるということなのか、こういう人が障害化しやすいのか、因果の方向性がわからない。「もともと行動のコントロールや自分の客観視に課題がある人はより注意しましょう、また、ゲームのし過ぎが行動のコントロールや自分の客観視を困難にする可能性もあります。」あたりが正しい。利用時間の図と同様、こういう脳の絵から直線的に因果を推定しないようにする教育こそ科学、情報リテラシー教育。
スマホ等の利用時間と正答率の図、この図で気づくことは?
⇒こんな図で二要素の因果関係に気付いてしまうようなら、科学教育として全くダメ
実際、研究報告を概観すると、学業成績や認知機能と、ゲーム時間、SNS時間、ユーチューブ時間の関連は、悪い影響があったというものから良い影響があったとするものまで多様(日本では悪いばかりですが)。
なぜ多様なのかは、知能に関連する遺伝や社会経済的影響があるのではないか、また多くは横断研究(ワンショット研究)で時系列で追った研究を行っていない点にあるのではないか、ということで、これらを考慮した1万人弱を対象とした研究が行われた↓。結果、9~10歳時点でのゲーム時間が長い方が認知機能が高まることを報告している。
Bruno Sauce, Magnus Liebherr, Nicholas Judd & Torkel Klingberg, The impact of digital media on children’s intelligence while controlling for genetic differences in cognition and socioeconomic background, Scientific Reports volume 12, Article number: 7720 (2022)
ワンショットでは受動的視聴時間とSNS時間が認知機能に負の影響を与えている。しかし、知能関連遺伝子、社会経済的状況の影響の方が強い。さらに、二年後までの認知機能の変化には、受動的視聴時間とゲーム時間が正の影響を与えている。
したがって、参考②で、好影響も示さないと、正しい気付きにはならないし、今、心理的医療的影響の研究スタイルは、こういう形に移行しつつあることも教えたほうがいい。
参考③ やめられないもうひとつの理由
「ゲーム等をして快楽を感じると脳内に大量のドーパミンが出ます。毎日ドーパミンが出ると脳は段々感じにくくなり、より長い時間ゲームをしないと満足できなくなるので、時間のコントロールが難しくなります」
⇒「毎日ドーパミンが出る」って別にゲームしなくても出てます。ごはん食べたり、やる気で学習したり、楽しく仕事したり。学校でドーパミンが出ないようなら、勉強が押し付け以外の何物でもないということで、大変ですね。
⇒「ゲーム等をして快楽を感じると脳内に大量のドーパミンが出ます。毎日ドーパミンが出ると脳は段々感じにくくなる」⇒報酬系でのドーパミン分泌は報酬によっても、報酬予測によっても出ます。さらに予測的なドーパミン分泌が起きるようになると、実際の報酬が予測を下回ると「がっかり」、ドーパミンの分泌が低下、停止します。こうして面白いことにも飽きていきます。一発芸がいずれ廃れるように「飽きる」。これがドーパミン系の報酬予測誤差を計算する仕組みです。
問題は、にもかかわらず長時間ゲームをし続けること。そうさせる素質や環境をかんがえないと。だから、ゲームでは依存系の精神科医じゃなく、児童精神科医にみな相談するんだと思います。
感じにくくなる⇒大量摂取、は物質使用障害でのメカニズムで行動で当てはまるかは不明です。ギャンブリングではむしろ薬物との違いが指摘されています。たとえばLinnet J(2020)の総説。そんなこんなで薬物のような耐性や離脱はICD-11では重視されていません。ゲーム障害では一般金銭ゲームなどでの報酬系の活動低下が指摘されますが、好きなことに報酬系が反応し少なり、他への興味が薄れるのは、あまりに普通の現象なので、この仕組みをもって「障害」を説明するのは難しいですね。
気付きを促す学習スタイルは素晴らしいですが、たんに世の中の空気を追認するだけになる気付きなら学習ではないですね。おかしな点に気付く気付きならいいですね。それが科学的ということ
このままでは非科学的な思い込みを気付きと勘違いし、再生産する人を増やす教育ということになると思います。
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