38回:『夜に数える』
夜に数える
ものを数えてお金をもらっている
21時から9時まで
スーパーとかモールとかで
商品とか金券を数える
指折りながら
8個のバケツ
暗算しながら
120束のウチカビ
覚悟を決めて
2541個の洗濯バサミ
せっせと時間を忘れるように数えていると
ふと思う
売っているほうもつくっているほうも
案外に正確な数はわからないものだな
、と
洗濯バサミは2545個ある
、と宣言してしまえば
4個余分に世界に存在することになる
存在だなんて大袈裟だけれど
これが洗濯バサミでなくいきもの
あるいはにんげんであれば
どうだろう
人権意識が著しく下がったさい
例えば戦争のおり
にんげんをもの扱いして
数えねばならない窮地
この収容所には2540人います
ぼくは正々堂々と誤魔化せるだろうか
この誤差は誰かを救うのだろうか
もし自分以外の誰かを救えられれば
一応尊厳みたいなものによって
戦争を乗り越えられるかもしれない
線香をカウントしながら
ゆっくり響く
白いイヤホンのなか
こどもはなんびゃくにん
おとなはなんぜんにん
ししゃはいくまんにん
にんげんを容赦なく数える
国とか国家というのにはじつのところ
正確な数が存在しない
、という
偉そうにしている割には
数も曖昧で
出入りが激しい上に
あそこは国じゃないとか
国家らしいが認められないとか
数えるにんげんの裁量によるらしい
ぼくは国や国家なんて数える業務には
当たりたくない
鉛筆数えるのにも精一杯で
ささやかなプレッシャーにも
弱いんだから
夜に気楽なのは
月、
星、
だれかの惑星、
スーパーの屋上で呑気に輝いている
数えるにんげんよりも
数える時間よりも
多い存在
数えるすべのないもの
業務の終盤6時には消え去るもの
星を数える仕事なんてものがあるとすれば
それはその手の地獄だろう
品ものはやがて数え終わる
今日の時給を計算しながら
ぼくは茶碗を数え続ける
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