三井の五感 【五感であじわう日本の美術】 三井記念美術館3 東京都中央区
展示品の写真撮影が珍しくなくなった最近のミュージアム。全館撮影禁止のトコロもありますが各館のスタンスもあるので、そういうケースでも特にガッカリというコトはありません。歴史ある建物などは撮影可にすれば、面倒クサイことになるのは容易に想像できます。
元々は見るだけ派(写真は撮らない)でしたが、展示物を写真で管理すれば恐ろしく便利なコト(フツーかも)に気づいてからは撮影するように。
行ったミュージアムを忘れるコトはたぶんありませんが、何を見たのかはけっこう微妙です(膨大な所蔵数を誇るトーハクなど)。
三井記念美術館は撮影可と不可が混在する館と認識していましたが、今回は全館OKとの情報を得て、前回の茶道具編から続けて足を運ぶコトに。
三井記念美術館は旧財閥系の約4,000点におよぶコレクションを所蔵する美術館。国宝6点に重要文化財は75点を数え、三井本館自体も重要文化財。
全て撮影可に食いついたのは、展示室内のしつらえや、あの茶室、そして展示リストに見つけたあの茶碗がお目当て。
東京都中央区日本橋室町2-1-1
五感であじわう日本の美術
展示は2024年9月1日まで。
設定された五感は、音を聴いてみる、気持ちを想像してみる、触った感触を想像してみる、香りを嗅いでみる、味を想像してみるの5つ。
想像してみるが多過ぎますが、触るのはやっぱり無理ですよね。
三井家と丸山応挙
丸山応挙(1733-1795)の作品を所蔵するミュージアムは少なくありませんが、三井記念美術館には三井家のオーダーによる応挙作品が所蔵されているのが特徴です。
白眉はお正月の顔になっている雪松図(国宝)でしょうか。
三井家は11家により構成されていますが、応挙との直接的な関係が明らかなのが、北三井家(惣領家)、新町三井家、南三井家。商家らしく絵の領収書が残っているそうです。
今回は多くの所蔵作品の中から4点が展示。
「気持ちを想像してみる」で展示。絵は北三井→新町三井→北三井家とオーナーを変えています。中心に描かれた郭子儀は中国の武将、長寿で子や孫に恵まれた人。解説には家族の記念撮影的な構図と。
「香りを嗅いでみる」での展示。北三井家4代高美の一周忌のために制作されたモノ。高美と応挙は親しい間柄だったそうです。そういうストーリーはお金では買えません。
「温度を感じてみる」で展示。シンプルな表現で描かれた滝の涼やかさ。
こちらも「温度を感じてみる」で展示。右隻に松原、左隻に滝と渓谷。滝から立ち上る霧と霞をマイナスイオンスポット的な涼やかさと捉えています。
香道
驚かされたのが香りの展示。三井さんはアレも所有していました。どなたか使用されたご当主さんがいらっしゃる?
50種類の香木詰め合わせ。収納方法や見せ方もキレイです。
十種香は三条西実隆(1455-1537)が、足利将軍家所蔵の多くの名香から厳選したベスト10。実隆さんは和歌や茶道でもエキスパートの文化人。
そして登場した蘭奢待。展示室内ではまったく香りません(当たり前)。ケース内はどうなんでしょうか?
見た目からか、多くのお客さんが詰め合わせ系の方に食いついていた印象。
蘭奢待は平安時代に伝来したとされる香木。本体は現在も正倉院所蔵で、香木の頂点とされています。東大寺から後土御門天皇(1442-1500)に献上され、蘭奢待の文字の中には東大寺が込められています。
過去には室町将軍足利義満、義教、義政に織田信長や明治天皇が切り取ったというかなりのレアもの。
とはいえ、ミュージアムでは意外と見る機会があるような気がします。
解説では三井家の蘭奢待は、加賀前田家の家臣奥村助右衛門の家老の家に伝わったモノで、信長さんゲットの品と推測しています。
つまり信長→前田利家→奥村家(加賀藩重臣の8家)→その家老 とかなりの拡散具合。信長さんはどれぐらい切り取ったのでしょうか?
ちなみに実隆さんのベスト10にも蘭奢待はなにげに入っています。気が付きました?
変わりダネは中国・明時代の青磁香炉に、火舎(香炉のふた)を明治時代の金物師中川浄益(千家十職)がコラボしたモノ。
伊勢二見ヶ浦の夫婦岩をモチーフに、波のすきまから香りが漂うという凝った作り。解説には伊勢出身の三井家ならではの品と。しめ縄も再現する芸の細かさ。ちなみに素材は岩や波は銀で、しめ縄は金!
茶道具類
茶道具類は前回展示と重複するモノもありましたが、前回と違ってこれらが撮影可能だったのはありがたい。
業平は、前回織部コーナーに並んでいました。銘は三井高大によるもの。
表(前)と裏で表情が全く異なります。素人目にはザラついている方が裏のようにも。
詞はヘラによる胴の削りが特徴。左官職人が壁をコテで仕上げたよう。ザラついた表面とバランスの良いフォルムは触りたくなります。これも前回の織部コーナーに。
俊寛は、三井の茶道具系ではレギュラー。こちらも前回に引き続きの登場。正直、長次郎の黒楽茶碗が単独で展示されていても判別できません(笑) 掌で包み込むと馴染むであろうフォルムとサイズ。
こちらも変わりダネ。
千利休所持とされる香炉。長次郎の香炉としては唯一らしい。「香りを嗅いでみる」コーナーに展示。
柳の枝を曲げ加工して綴じた水指。紀州徳川家の西浜御殿(和歌山)では、毎年元旦に柳の枝を飾り、それらを集めて制作されたSDGsな逸品。
紀州徳川家は、三井本家のある松坂の殿様。
展示室というか通路の一角にあるのが如庵。
如庵
如庵は日本に3つある国宝茶室の1つ。かつては三井邸内にありました。
織田信長の弟有楽斎(長益:1547-1622)が建てた彼の美意識の結晶。現在は愛知県犬山市に現存。
写真で見るとカット模型のように見えます。ぜひ本物と比較してみたかったのがこの再現茶室。
特徴の斜めの壁と三角形の鱗板がよく分かります。有楽窓はバッサリ省略。また床柱の経年変化も省略され、のっぺりとした印象。腰壁に張った暦は読めます!(本物とは違うような)
そして2024年はじめにトーハクに集合していたあの光悦茶碗の1つ。
本阿弥光悦 銘 雨雲
雨雲と俊寛は独立して展示されていました。雨雲の反対側には香道具関係。雨雲より香木詰め合わせに興味を示していたお客さんが多かったようにも。光悦展とは客層が違うのかもしれません。
本阿弥光悦(1558-1637)は、マルチアーティスト兼プロデューサー。2024年はじめのトーハクでの特別展は記憶に新しいところ。
シャープな口縁が光悦茶碗の特徴。
ひとりで雨雲をじーっと見ているおばあちゃんがいて、目が合うとボソッと
「くちびる切れそう」と。
声には出しませんでしたが「その通り」と。刀研ぎは本阿弥家の本職だし。
フォルムはもちろん、ツヤとサビた部分(ツヤ消し)のバランス、そして独特の色合いが魅力でしょうか。
光悦さんは作陶で楽家の協力を得ていますが、楽茶碗とは異なる個性です。そういえば楽家15代直入さん(1949- )の光悦的なシャープさを持つ作品を見た事があります。光悦へのオマージュ?
コチラは古い三井ベスト盤的な図録ですが、今回の展示品も数多く掲載されています。旧蔵先の各三井家別に収録されているのが面白い。三井本館の古い写真や改装風景も掲載。
撮影全OKに引き寄せられましたが、キャプションを読みつつ三井家所蔵品の奥深さを知らされる発見の多い展示でした。