素直に認めない一目惚れ-後編
「素直になれないひねくれ中学生」
1.3 素直に認めない一目惚れ-後編
3年間なんてあっという間だ。
小さな事件はいろいろあったけど、何事もなく中学校生活は終わり、とうとう卒業式の日がやってきた。
見知った人々が体育館の前に溢れている。あの人とはこんなことがあった。この人と話してみたら意外に面白かったかもしれないな。その人は高校でやっていけるのだろうか。
溢れ出るような感慨なんて存在しない。単純化してしまえば、たまたまこの中学校に通った人間たちが、たまたま起こった人間同士の化学反応に意味を見出し、たまたまこの場所で卒業する今涙を流しているだけ。それ以上でも、それ以下でもない。
人垣の中、燐の姿を見出す。結局同じクラスだったのは、1年生の間だけだった。それでもなにかと交流はあったし、頼られる場面もそれなりにあった。思っていたようなロマンチックな展開にはならなかったけれど、彼女と話すのは楽しかった。それがきっと、自分と彼女の自然な在り方。
自分は必要以上の声を掛けなかったし、彼女も友達以上として話をしようとはしなかった。それが現実。僕にとっての精一杯。
後悔は……。まぁ、ない。どう転んでも僕は声を掛けなかったし、彼女にとっての僕はせいぜい他とは違う視点を持った親友。そんなところ。何がどうなっても、これ以上にはならなかった。そう思う。
最初からそういう関係に落ち着くって決まっていたんだ。あの放課後の教室から。
彼女の特別なんておこがましい。僕は誰かの特別になれるほど、何かが際立った人間じゃない。ただ周りより細かなことに気がつき、その意味を考えていただけ。
吹奏楽部の後輩から花束をもらっている燐。
目が合う。そのまま、僕も彼女も視線を離した。
つまりはそういう結末。
これが僕と彼女が望んだ、僕らの落ち着く立ち位置。
面倒くさい部活のあれこれはバックレてもいいか。3年間なんとか頑張ったけど、剣道部はそんなに居心地のいい場所ではなかった。僕は最後まで部外者だった。必要最低限の関わりを持つ、ちょっと不思議な部員。それが彼らから見た僕の在り方。そんな立ち位置を気に入っている時点で、僕は彼らの輪には入れない。入る気もない。
間違いなく、楽しい3年間だった。
間違いなく、掛け替えのない3年間だった。
それで充分。
自転車を引き出し武道場を素通りして、もう通うこともない帰路を辿った。
fin.
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