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「ザ・ホエール」 白鯨、受難超え解き放つ


監督:ダーレン・アロノフスキー
脚本:サミュエル・D・ハンター
キャスト:ブレンダン・フレイザー,セイディー・シンク,ホン・チャウ

受賞歴
第95回 アカデミー賞(2023年)
第80回 ゴールデングローブ賞(2023年)
第79回 ベネチア国際映画祭(2022年)


叙分


こんにちは、choco...です。
今回は「ザ・ホエール」という映画を観てきました。


監督は「ブラックスワン」で有名なダーレン・アロノフスキー監督です。

ジェニファー・ローレンス主演の「マザー」ではキリスト教創世記とうまく絡めた傑作を作りました。


まだ作品数自体は少ないですが、
この監督は”人間”を精神と肉体で表現する天才だと思っています。

薄氷の如き精神と、それを纏った肉体という物質の痛々しさ。


ああ、”人間”とは如何に脆く重厚な存在なのだろうか、と感じさせられます。


そんな監督の最新作「ザ・ホエール」。まだ劇場でやっていますので是非足を運んでみてください。


今回の主演は、あの「ハムナプトラ」シリーズのブレンダン・フレイザー。
ミイラの軍勢から家族を守ったイケオジが、見るも哀れなFat Manに変貌しています。


あらすじ


ボーイフレンドのアランを亡くして以来、現実逃避から過食状態になりクジラの如き巨漢と成り果てた40代の男チャーリー。

アランの妹・看護師のリズの助けを受けながら、オンライン授業でエッセイを教える講師として生計を立てていた。

上がり続ける血圧、命に危険が及んでいることを理解していながら病院に行くことを拒否し続けてきた。


ある日症状が悪化し自分の死期がまもなくだと悟った彼は、
8年前、アランと暮らすため家庭を捨てて以来別れたままだった娘エリーに再び会おうと決意。


彼女との絆を取り戻そうと試みるが、エリーは学校生活や家庭に多くの問題を抱えていた。


チャーリーは娘エリーを救おうと試みるが。。。


跋文


今回、舞台は部屋の中でほぼ完結する。

チャーリーの巨躯が充満した一つの部屋で、
最小限の動きからすべてを表現するブレンダン。
アカデミー賞主演男優賞を取っただけある。


今回はとにかく画面が重かった。
まるで深海のみなそこで藻掻くような。
これは単なる自殺志願者の物語なのだろうか?


この監督は宗教観を取り入れるのが好きです。

今回も、ニューライフ教会の宣教師が登場したり、そもそも物語に深く関与する「白鯨」は宗教的なメタファーが含まれている作品だそうです。


この映画は月曜から、彼の5日間を切り取った構成となっている。
映画の最後は金曜日。

金曜と言えばキリストの受難日だ。
キリストが十字架に架けられ、解脱し救済された日。

奇しくも、この物語は“週末”を題材としており、宣教師は“終末論”を救いとしチャーリーに近寄ります。

なるほど、この映画は救いがテーマなのかもしれません。


この映画に登場する人物達は皆、過去のトラウマに囚われ苦しんでいます。
それぞれの救いは、それぞれのエゴ。
そこに他者の願いは含まれていません。


エリーの救われたいという悲鳴は母親に邪悪と映り、
娘を救いたいと願う父は醜悪で浅薄な人間だとエリーに映った。


それでも、とにかく自分に正直に生きることが、救われることと説いていた気がします。

でもそれだと隣人愛(アガペー)との結び付けはどないなんや?うーん、難しい。

ラストからエンドロールまでは素晴らしく、どこか充足された解放感を感じていました。
出来るならば初見に戻ってまたラストを浴びたい。


どんな人間も、誰かを気にせずにはいられない。
だから人間は素晴らしい。


なんだかグッときたセリフです。

人間は自分にしか救われないのだけど、
その反面他人が介在しなければ自分を保てない。

そういった成り立ちの中で、愛とか恋とか善とか悪を生みだした。
そういった尺度を保ちながら、
弱々しく生きる人間を皮肉った美しい言葉に感じました。

そんな解釈で良いのだろうか。
少しドライすぎるだろうか。


人は、常に救われたいと願っている。
救われたかどうかは、最期にしか分からないのかもしれない。

だから、私たちは同じ方角へ動き出す。


命の際に高く飛び上がる為に、
            深く深く潜る。



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