370ゴールドのいのち
死んだ友人を生き返らせてもらうために教会へ行った。人を生き返らせるには370ゴールドの寄付が必要なのだと言う。僕が金を払うと神父様はしばし荘厳な祈りを捧げ、ややあって友人は生き返った。祈りは神に届いたのだ。
友人と同居するようになって2年。これで3度目の死、3度目の復活。合わせて1110ゴールドを納めたということになる。そう言えばくたびれていた教会の壁が最近綺麗な白に塗り直されたばかりだが、僕の寄付のおかげなのかと思うと何だか複雑な気持ちだ。
生き返った友人と一緒に教会から帰る。城門の前に市が出ていたのでふらりと立ち寄って市を見て回った。りんごをひとつずつ買ってかじりながら、取るに足らない話をして歩いた。もうじき寒くなる、冬物の服をいくつか欲しいものだ。お前は寒がりだからな。いやいやお前が寒暖差に無頓着過ぎるんだよ。このりんごはまだちょっと酸っぱいな。そうか?俺はこれくらいの方が好きだぜ。冷たい風が肌に心地よい夕暮れだった。
翌朝、僕はまた友人が部屋で首を吊って死んでいるのを見つける羽目になった。しんでしまうとはなさけない。大きくひとつため息をついて、丁寧に天井から友人を降ろす。毎度毎度片付けをやらされるこっちの身にもなってくれよと思う。せめて死ぬ理由だけでも教えてくれればこうなる前に何とか出来るかもしれないのに、友人は頑なにそれを話そうとはしてくれないのだ。棺桶に友人を入れて引きずって、僕はまた教会に行く。昨日食べたりんごが美味しかったことを、お前は忘れてしまったのか。2人で取るに足らない話をしながら歩いた時間が楽しかったとか、それぐらいの理由でもうちょっと生きてみようかと思ってくれないものだろうか。いや、それは僕のワガママだ。死を望むワガママと、それを許さずに毎回生き返らせるワガママと。どちらが悪いことだろうか。それでも僕は迷わない。370ゴールドで君にまた会えるのなら、何度だって払ってやろうじゃないか。
「頼もしき神のしもべよ、我が教会にどんなご用じゃな?」