三恋分立
死ぬほど好きだった人に振られた俺は、めちゃくちゃに落ち込んでどうしようもなくなってしまった。仕事にも支障をきたし、友人知人にも迷惑をかけた。これは良くない。この経験を踏まえて、俺は恋愛感情を分散させることを覚えた。今は3人の人を好きでいることでバランスを保っている。
1人目はシホだ。元々は仕事関係の友人で、時々飲みに行く仲だった。恋愛対象というよりは戦友のような関係だったが、いいやこれは友情ではなく愛情なのだと思い込んで友達以上恋人未満の片思いを楽しんでいる。気の置けない女友達と飲みに行って過ごす時間は楽しいものだが、気の置けない好きな人と飲みに行くのはもっと楽しいものだ。想いを告げて関係性を進めるべきか、このままいいお友達として想いを秘めておくべきか。そんなことを考えて悶々と過ごす時間もまた良い。
2人目はセイコだ。大学時代の後輩で、今は小劇場で舞台女優をやっている。久しぶりに連絡が来て観劇に行った舞台がとても面白くて、長文の感想を送ったのがきっかけで時々会うようになった。女優をやっているくらいだから、彼女はとても美人だ。彼女とは大抵お洒落なカフェに行って、演劇や芸術の深い話をする。思慮深くユーモアがあって夢を追いかけている美人と深い話をすることほど楽しいことはない。最近は悩み相談などにも乗るようになった。好きな人が自分のことを信頼してくれるのはとても嬉しいものだ。
3人目はマリポンだ。マリポンというのは本名ではなくハンドルネーム、彼女はSNSで知り合って関係するようになった、まあいわゆるセフレだ。デザイン系の仕事をしているらしいことと、田園都市線沿線のどこかに住んでいること以外ほとんど何も知らない。都合のいい時に会って飲みに行ってそのままホテルに行くだけの関係だ。飲みさえ挟まずに直ホテルなこともある。お互い気を遣わず、余計な詮索はせず、でも一緒に過ごす時間は最大限に楽しむ。これもひとつの恋愛の形だ。俺は彼女の存在にとても救われている。
3人に恋愛感情を分散させてから、俺はとても穏やかに幸福に過ごせている。やはり権力の一極集中は良くないのだ。うまくいっている時はいいのかもしれないが、権力者への行き過ぎた熱狂が時に暴走や悲劇を生むことを我々は歴史で学んでいる。三恋分立こそが理想的な、民主的な恋愛の在り方なのだ。少なくとも俺という小さな国に於いてはそうなのだ。俺はこの平和を守っていきたいと願っている。