屋根裏の夢
前に住んでいた古いアパートの屋根裏に、俺は死体を隠していた……という夢をよく見る。もう20年以上前に住んでいた家だ。もちろんそんなことをしたはずもない。しかし何度も何度も同じような夢を見ているうちに、俺は本当に死体を隠したのではないか?と思うようになった。
何らかの自己防衛本能のようなものが働いて記憶を抹消しただけで、実は本当に死体を隠しているのではないか?そしてそれがこうして夢となって出てきているのではないか?その疑念は始めは小さなしこりのようなものだったが、次第に大きく強く確信めいたものへと変わっていった。俺は誰かを殺した。そして屋根裏にそれを隠したのだ。誰を?一体何のために?肝心な相手と動機がどうしても思い出せなかった。
友人としこたま酒を飲んだ夜、俺はまたあの夢を見た。部屋に女がやってくる、女と俺は口論になって、俺は女を殴った。吹っ飛んだ女は柱の角に頭をぶつけ、そしてそのまま動かなくなった。俺は焦った。そんなつもりじゃなかった、殺すつもりじゃなかったんだ。俺は翌日ホームセンターでブルーシートを買ってきて、女を包んで屋根裏に隠した。これで見つからない。これで大丈夫だ……そこで俺は目が覚めた。ここまではっきりとその瞬間を夢に見たのは初めてだった。やはり俺がやったことだったのだ。女の顔だけがどうもはっきりと思い出せなかったが、ここまで記憶が蘇ってしまってはもう言い訳のしようがない。俺は警察に出頭することにした。
警察の立ち会いのもと、俺は20年以上ぶりに以前住んでいたアパートに来ていた。20年経って相応にくたびれていたが、アパートはまだ健在だった。俺の住んでいた205号室は早稲田の学生が住んでいるらしい。管理会社の承諾を得て、屋根裏の捜索が行われた。そして、俺の証言の通りに『それ』は見つかった。屋根裏にあったのは、ブルーシートに包まれた白骨化した死体だった。
死体はよくよく調べられたが、どう見積もっても30年以上前のもので、俺が殺したのだとすると古すぎた。調べてみると、俺が住むよりもずっと前、アパートが建てられたばかりの頃に住んでいた夫婦の奥さんの方が行方不明になって、そのまま引っ越しているのだそうだ。警察が苦労して旦那の方の現住所を突き止めて事情を聞くと、そいつはあっさりと自らの罪を告白した。彼は妻を殺し、屋根裏に死体を隠し、被害者ぶって行方不明の届けを出し、そしてそのまま引っ越したのだ。俺は屋根裏に死体があるのに気づかないまま4年間もその同じ部屋に住んでいたことになる。俺はゾッとした。
そんなわけで真犯人が見つかり、俺は無罪放免となった。それにしてもあの夢は一体何だったのだろう?屋根裏にあった死体が、私を見つけて欲しいと俺に送ったメッセージだったのだろうか。しかし何故俺だったのだろう?あれ以来、嘘のようにあの夢を見ることはなくなった……わけではなく、それからもたびたびあの夢は見る。死体からのメッセージだったんじゃないのか?もう死体は見つかったじゃないか。じゃあ誰が何のために俺にこの夢を見せてるんだ?それともこれはやっぱり俺自身の記憶なのだろうか?前に住んでいたアパートの屋根裏に、俺は死体を隠して……いた?疑念はまた確信に変わりつつあった。今夜もまた屋根裏の夢を見てしまいそうな気がする。あぁ、眠りたくないなぁ。
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