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ヨガ教室終了譚

区のコミュニティセンターのヨガ教室に通って4年になる。何かの用で区役所に来た時の待ち時間にたまたま手に取ったチラシがきっかけだった。早速翌週の体験教室に行ってハマってそのまま通い始めた。飽き性の私がここまで続けられたのは、講師のあかね先生のおかげだった。

あかね先生は明るく、スタイルも良くて美人で若々しく、私より2つも年上だと聞いた時は声をあげて驚いたくらいだった。学生時代に旅行で行ったインドでヨガに出会い、卒業してから1年留学して本場でヨガを学んできたらしい。ヨガにもたくさんの流派があるらしく、あかね先生の学んだヨガはとても古い珍しい型なのだと言う。ひとつひとつのポーズにじっくり時間をかけ、身体的なストレッチと呼吸と瞑想により身体と心を整える。私は昔から運動はからっきしだったけれど、あかね先生の丁寧な教え方のおかげで楽しく通えていた。そんなあかね先生のヨガ教室が、突然終了になった。

事前の告知もない突然の終了だった。いつものように水曜日に教室に行ったらドアに1枚張り紙が貼られていた。ヨガ教室が終了すること、この枠は代わりに親子体操教室が準備中であることだけが書かれた素っ気ない張り紙で、終了の理由については何も触れられていなかった。さすがにこれはない。私は区の担当の職員さんに理由を問い質しに行った。うーんと眉をしかめながら話してくれたのは、あかね先生の経歴詐称についてだった。

ヨガインストラクターになるにはライセンスが必要なのだが、あかね先生のライセンスは偽造されたものだったらしい。先生はヨガの経験など全くなく、留学はもちろんインドに行ったことさえなく、年齢も7つもサバを読んでいてまだ29歳だったことが発覚して、急遽終了にせざるを得なかったそうだ。教えていた内容も全くのデタラメでっち上げ。あかね先生はただ身体の柔らかいだけの普通の人だったのだ。私は唖然とした。

ヨガ教室が終了してから3年。私は別のヨガ教室に通うでもなく、ただの主婦に戻っていた。あかね先生の件は地元で小さなニュースにはなったが、区に対して幾らかの違約金を払って手打ちになったらしい。教室を辞めてから肩が凝るようになったし、便秘も酷くなった。実はいくつかのヨガ教室に行ってはみたのだが、あかね先生のようにいい感じに教えてくれる所はひとつもなかったのだ。嘘でもいい、あれがヨガでも何でもなかったならそれでもいいから続けてくれれば良かったのに……。あれ以来あかね先生には一度も会っていない。教室で知り合った友達と、ほんとにインドに留学してヨガを勉強して帰ってきてくれたらいいのにね、なんて話をして笑ったところだ。

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