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かつて若かりし頃
たまには昔の女の話なんかをひとつしてみましょうかね。
学生の頃から僕は映画が好きだったんですけども、やっぱり面白い映画を観たあとってのは人に話したくなるものなんですよね。もうはるか昔の話ですけども、当時公開中だったある映画が本っ当に素晴らしくて、仲間うちで集まった飲み会で僕はその映画の話を語り倒したんです。本当に素晴らしかった、是非ともみんなにも観て欲しい、なんなら僕ももう1回映画館に観に行きたい!…ってな具合です。酒に酔って自分の好きなものを語ってしまうってのは時に迷惑な時もあるものですけども、有り難いことに仲間たちはうんうんと聞いてくれましてね。そうこうしているうちに中の一人が乗っかってくれまして、じゃあ今度一緒に観に行こうよと、まあそういう話になったわけなんです。
そのコは…まあ女の子だったんですけども、当時よくつるんでいた仲間たちの一人で、僕と同じく映画が好きで、とても魅力的で素敵な人だったんですけども、まあどちらかと言うと普通にお友達として好きってやつで。と言うのも、どうせ僕なんか男として見てくれてないだろうってのが前提としてありましてね。だったらこの人は女友達なんだぞって思ってた方がまあ、誰も傷つかないじゃあないですか。卑屈の極みって感じですけども、まあそんな感じだったんですね。で、まあそんなわけで映画を観に行こうって話になりましたので予定をすり合わせて、次の日曜日に行こうということになったんです。
映画を観に行くことも、そのコと映画に行くってこともとても楽しみだったんですけども、言うても普通に女友達と映画に行くわけですから、僕はいつも通りに待ち合わせの場所に行っていつも通りに待っておりました。そうすると当然そこに彼女がやって来るわけなんですけども、その彼女を見てびっくりなんですよ。僕みたいな男が見てもひと目で分かるくらい、頭の先から足の先までバッチリ決めたお洒落な格好をしてたんです。で、本当に間抜けな話なんですがその段になって初めて気がついたんです。これデートやないかい!!ということに。
たぶん僕があまりに鈍感だったのと、あとこれは言い訳がましくなりますけれども、僕があまりに映画が好きだったってのもあるんでしょうね。僕はすっかり普通に女友達と映画を観に行くつもりでいたんですけど、彼女はしっかりデートのつもりでいてくれたんです。いやぁこれは焦りましたね…。彼女を見た瞬間に、これがデートであること、彼女がデートのつもりで来てくれてるということを悟った瞬間に、サーッと血の気が引いてくのが分かったくらいでしたから。完全に油断し切ってたんです。なんせ普通に女友達と映画を観に行くだけのつもりでおりましたから、お洒落でも何でもないいつも通りのジーパンとTシャツで、なんならTシャツはちょっと着古してくたびれてたぐらいで、そりゃ焦るってなもんですよ。でもまあクソみたいな例えをしてしまいますけどデートってのは戦争みたいなもんで、こっちがそのつもりじゃなくても相手がデートのつもりで仕掛けて来たらこっちは受けて立つしかないわけです。僕は覚悟を決めてデートに臨みました。
映画までまだ少し時間があるということで、彼女のよく行くというお洒落なカフェでお洒落なランチをして、映画を観て、お茶を飲みながら映画の話をして、少しふらふらとウインドウショッピングをしているうちにいつの間にか手なんか繋いでたりして、ちょっと背伸びをして小洒落たジャズバーでお酒を飲んで…今考えてもそれはそれは完璧なデートでございました。僕は完全に彼女のプランに乗っかっただけで、彼女の手のひらの上でくるくる踊っただけでしたけども。ほろ酔いでバーを出たあと、この後どうする?みたいなことになりまして、どっちの提案だったかはうろ覚えなんですけども、この流れだとおそらく彼女からの提案だったんでしょうね。彼女はそのままうちに来るということになりまして、細かい描写は都合により割愛しますけれどもその夜の間にひと通りの事がありました。
それがちょうど誕生日の直前の日曜日でしてね。翌朝別れ際になって、「来週の水曜日また会えたら嬉しいんだけど平日だし難しいよね……」なんてことを言って恐る恐る誕生日を一緒に過ごしたいという旨を伝えたりなんかして、そんな始まり方をしたんですよね。今でも誕生日が近付いてくると思い出したりなんかする。若かりし頃の甘酸っぱい恋の思い出でございました。
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