「ただの しかばね のようだ。」
へんじがない。
ただの しかばね のようだ。
――「ドラゴンクエスト」シリーズの定番メッセージ
みなさん、この言葉は知っていますか。ゲーム『ドラゴンクエスト』で、話しかけた相手が「しかばね」だった時に表示されるメッセージです。
ゲームの言葉と言ってしまえば、それだけのことなのですが、よくよく考えてみると、不思議な言葉です。
普通、「しかばね」かどうかは、見れば分かりますよね。ところが、『ドラゴンクエスト』の世界では、話しかけるまで分からない。相手が生きていれば、必ず何らかの返事が返ってくるのも、この世界の特徴です。だからこそ、「しかばね」であっても何らかのメッセージが必要になるのです。
『ドラゴンクエスト』はRPGに分類されます。このRPGですが、そのルーツを知ると、何が重視されているジャンルなのかがよくわかります。
現在のコンピューターRPGは、元をたどると1974年に発売された『ダンジョンズ&ドラゴンズ』(『D&D』)に行きつきます。これは、紙と鉛筆と会話だけで進行するテーブルトークRPGの元祖です。『D&D』はその名前からも推測できるように、「探索(ダンジョンズ)と戦闘(ドラゴンズ)」がメインのシステムでした。
一方、コンピューターRPG の誕生の舞台は『D&D』と同じアメリカです。1980年に生まれた『ローグ』、翌81年に生まれた『ウィザードリィ』は、やはり「探索と戦闘」が目的でした。
ところが、ファミコンを生んだ日本では、86年に『ドラゴンクエスト』が生まれます。この作品では、「探索と戦闘」と同じくらい「会話」が重要な要素となっています。新しい村に着くたびに、全ての村人と「会話」をし、そこから冒険のヒントを得ていくのです。と言っても、テーブルトークのような自由な「会話」とはいきません。あくまで、あらかじめ決められたテキストメッセージのやり取りです。
そこから翻って我々の日常生活を見ると、不思議なことに気づかされます。
ゲーム内のコミュニケーションがテキストメッセージから音声メッセージへと進化してきたのとは逆に、実際のコミュニケーションは、テキストメッセージのやり取りに向けて進化してきたのです。
電報や電子メール、ポケベルからケータイメールへ、そしてチャットに掲示板、21世紀に入ってからはブログにSNSと、人々は時代を下るごとに、より大量のテキストを送受信する生活に突き進んできました。送ったメッセージには即レスが求められ、互いに心をすり減らしていることが分かっていながら、このゲームからは誰も下りることができません。
時々僕は、そこにゲームの村人の姿を重ねてしまうのです。プレイヤーから何度も何度も話しかけられ、律義に同じメッセージを返し続ける村人の姿を。
返事を返さなければ「しかばね」だと認定されてしまうのは、確かに悲劇です。
ですが、ふと考えるのです。『ドラゴンクエスト』に登場した「しかばね」は、どうして「しかばね」になってしまったのだろう、と。すると、そこにはRPGのもう一つの骨格である「探索と戦闘」が見えてきます。その「しかばね」もまた、「探索と戦闘」の世界に身を投じていたはずです。
だとしたら、「しかばね」にならないために、もう一つの方法を取ってみるのはどうでしょう。
終わりなきコミュニケーションのゲームから身を引いて、「探索と戦闘」に身を投じてみるのです。
後は自分にとっての「探索と戦闘」を探せばいいだけ。その道行きも、やはり「探索と戦闘」の連続です。ですが、その先にはコミュニケーションからは得られない、驚きと発見が待っているはずです。
Photo by Clint Bustrillos on Unsplash
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