
【長編連載小説】絶望のキッズ携帯 第22話 オンラインゲーム
ガキがオンラインゲームに夢中な理由は一つ。他の人に見下されている自分が、どこの誰かは知らないとは言え華麗に技を見せつけることができ、尊敬されているからだそうだ。おいおい、ゲームの向こうで見ず知らずの奴がキメている華麗な技に誰も興味は持たないだろう。そして分別がつく人間なら分かるはずだ。そこまでやり込むような奴は馬鹿だと。せいぜい学校にも行っていないような人間だと思われる程度だ。そんなことなら技を華麗にキメるより浮気相手とバタフライをキメた方がいい。形はどうあれ結婚し、セカンド長男とでもいうべきか、不思議な息子にも恵まれる。ガキの目が潤み始めたのを見て、俺は確かな手応えを感じた。ゲームの馬鹿らしさが分かってきたようだ。
この際だから続けることにする。こんなことではナーちゃんになってしまう。ナーちゃんとは嫁の友達だ。四十二歳で独身の体育教師。彼氏はこの四十二年間ほどできていない爆弾だ。結構美人なだけに内面に問題があることが分かる。今は婚活パーティーで医者や弁護士を狙っているらしい。貞操を守りすぎて自分の値段が分かっていない。メルカリに出品したら運営からアカウント削除をされるだろう。などと俺が世の中を分かっていないことを言うと思うだろうか。メルカリのサーバーが落ちる。そんな女だ。おいクソガキ、お前が通っているのはこのルートだ。
ナーちゃんはまだいい。テニス一筋で生きてきたため体育教師という職にありつけた。ラケットと一緒に人生を棒に振っていることはピン球部のこいつも同じだが、テニスとゲームは違う。ゲームは仕事にならない。ナーちゃん以下の人生を歩むことになってしまう。ナーちゃん以下の人生を想像してほしい。ナーちゃんから体育教師を引いた状態だ。あまり条件を差し引くと可哀想なのでガキが教育学部を出て教員免許を取っているとする。教員免許を持っていて、採用試験に受かってないため教師ですらない四十二歳。それはただのオッサンだ。ババアと変わらない。一人の教師として教育業界の現状を憂うビデオ通話を、俺に午後十一時半から午前二時までかけるつもりなのだろうか。はっきりと言いたい。教師でもないババアは教育業界より俺たちの睡眠時間を心配するべきだ。いい加減このバタフライババアに殺虫剤をかけなければならない。いくらガキでも分かるだろう。ナーちゃん以下になると殺虫剤をかけられるんだ。ガキの目が潤んでいる。胸に響く言葉だったんだろう。何かに打ち震えながらガキが叫んだ。
「普通そこまで言うか?」
確かにナーちゃんに関しては、結婚が幸せという俺の独断に基づいて発言してしまった。訂正しなければならない。確かにそれが全てではないかもしれない。婚活パーティーと聞いていたが、言い方を変えれば異業種交流会だ。生徒の指導にも有益なことは多いだろう。そして確かに貞操は尊いという考え方もある。初恋の人とまだ出会っていないということは、明日初恋をするかもしれないという期待を胸に眠ることができる。そして毎朝ニュース番組の占いを見て、恋愛運アップのラッキーアイテムを身につけるという楽しみを一生味わえる。月日が経ち、明日恋に落ちるかもしれないと思って眠りについたところで、朝が来なくなるということだ。幸せなことじゃないか。ガキに間違いを教えてしまった。正解はナーちゃん>ババアとお前だ。