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【長編連載小説】絶望のキッズ携帯 第12話 愚痴

食事を済ませ、俺たちは家に帰った。さあ、聞こうじゃないか。お前が何をしに来たのかを。太麺皿うどんで心を開いたのか、やっとガキが喋り始めた。しかし学校のこと、ババアのこと、そしてゲームのことなどの愚痴が始まると一向に終わらない。かなりのラップのスキルを持っていることは確かだ。ブレスがない。最近はネガティブなラップがアメリカで流行っていると聞くが、ネットを介して渡米しているんじゃないだろうか。とにかく最先端で、斬新で、不愉快なラップだ。

まとめると学校では先生に目の敵にされ、同級生には相手にされず、ゲームがしたいけれどババアから許可されている制限時間が厳しく、がんじがらめなのだそうだ。曇ったガキの顔というのは見ていて気持ちの良いものではない。俺は昨日用意したプレゼントでこいつを喜ばせることに決めた。

そもそも友達がいない学校というものが楽しい訳がない。しかしこいつと友達になりたいかと言われると、答えはノーだ。このガキから仲良くしてくれと頼まれたら、断るためにあらゆるスタンプを送るし、ブロックする。鬱陶しい。それではこのガキに友達を作るためにはどうしたらいいか。まずは考えることが重要だ。友達ができやすい層を狙う必要がある。

友達ができやすい層。それは不良だ。悪いことをしたらしただけリスペクトされる簡単な業界だし、煙草を吸える場所なんて限られているんだから必然的に話す時間もできる。喧嘩になっても硬いもので鎖骨を折れば基本的には勝てる。俺はそう考えていた。だからプレゼントを用意した。

zozoタウンは偉大だ。革ジャン、ウォレットチェーン、ネックレスなどアウトローみたいな服だって揃ってしまう。俺は着ると嫁に怒られる服を、この際だからガキにあげてしまおうと用意していた。もちろんインナーに困ってもいけないので、セックスピストルズとかのTシャツもあげるつもりだ。服に凝り出すと女にもモテるし、一石二鳥じゃないか。今にも泣き出しそうになったガキに、俺は話を始めることにした。

お前が悪い。ママと友達と学校の先生がお前に合わせる理由がない。別にお前がいなくても誰も困らないんだから、みんな困らないようにしているだけだ。いる方が迷惑だと思わないか?笑いを提供するでもなければ手伝いをするでもない。ゲームして人気者になりたいなんて、生ぬるいクソガキだと思ってたが、心底クソッタレの馬鹿野郎だった。

空気が凍った。二度目のフローズンダイキリ。ただ今度のダイキリは、俺のことでもある。

俺がいなくても社会は困ってない。社会に参加しようとして失敗して引きこもった。引きこもっている割には、陽の光を浴びたいと思っている。しかしそんな努力もしていない。クソッタレ。俺のことだ。

俺は胸に痛みを感じながら、プレゼントが入った紙袋を差し出した。これを着ればお前は変わるという言葉を添えて。ガキが期待に胸を膨らませて袋を開ける。まずはダブルのライダースジャケットを取り出し、俺の目を見つめた。そしてウォレットチェーンを握る手が震えている。無骨な十字架のネックレスに至っては取り出されなかった。しかし俺はこのガキに今何が必要か説いた。

まずはアナーキーなパンクになるんだ。あいにくヒップホップの服は捨ててしまったからないが、これでチンピラが集う場所に行け。ライブハウスで良い。入り浸るところから始めろ。マミー、ティーチャー、フレンド。全部解決だ。家に帰らなくても誰か泊めてくれるようになる。先生も諦めるだろう。そして友達もできる。あとはライブハウスにいる女の中には物好きがいるから、その物好きを狙え。お前の本能を曝け出すんだ。

ガキが明らかに落胆している。どうしたのだろうか。話を聞いてみると今時不良は流行らないらしい。それでは何が流行っているんだろうか。たずねてみたところ、ゲームだと答えられた。それなら流行に乗っているガキが除け者にされる理由がない。
「なんでお前は流行ってないの?」
俺の質問は宙を舞って煙のように消えたようだ。返答は違う方向からの感情的なものだった。
「普通それ言うか?」
よほど辛かったことがやっと分かった。

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