【長編連載小説】絶望のキッズ携帯 第5話 歯医者さん
町の歯医者さんに勤めることになった俺は、郊外の焼肉屋さんというアットホームな空間で歓迎会を開かれた。自己紹介を早々に済ませると、衛生士さんや歯科助手の皆さんもそれぞれ名前を教えてくれた。和やかなパーティーだ。ジャイアンもスネ夫GDもいない。やはり町の歯医者さんには穏やかな空気が流れている。サバンナとは違う。
一同に酔いが回り、会話も弾んでいる。俺が六杯目の生ビールを頼むと嬌声まで上がった。俺の出身大学は長崎大学で、九州だ。酒は死ぬほど飲んできた。そんな俺にとって、こんな酒はオロナミンCだ。顔色一つ変えず会話に小粋なジョークで華を咲かせた。しかし、誰もが心地良く過ごしている中、最初に気分を害したのは俺だった。
対面に座っている妙齢の衛生士のつま先がやけに俺の足に当たる。顔を見ると目が合った。当然俺は察した。既成事実作成キャンペーンの始まりだ。俺の数少ない自慢だが、俺は大学時代だけで人に話せない数の女を落としてきたジゴロだ。スネイクと呼んでほしい。そんなスネイクが妙齢の女性を相手にすると思われたことが癪に障る。呆れていると、隣にいる歯科助手の女からのボディタッチも増えてきた。ananズ。この手の浅はかな連中は夜のテクニックがない上に手を出すと面倒臭い。嫌気がさし、ブラックジョークも混じえながら、ウブな俺というキャラクターをやめることにした。
まずこれまでに付き合った恋人の数を聞かれた。正直に三人と答えた。ananズが獲物を仕留められると確信したかのように目を輝かせる。院長まで興味を示し始めた。次に聞かれたのは経験人数。場が賑やかになってきたので正直に答えた。
「300は超えたと思いますが…」
やはり人には話せない数だったらしい。焼肉屋の火がすべて消えたんじゃないだろうか。肉も冷めたようだった。しかしとにかく、ananズは退治できた。
翌日以降、全てのスタッフからの無視が続いた。アシスタントもしてくれない。こんな人間関係の中で二度目の俺の歯医者ライフが始まった。