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【長編連載小説】絶望のキッズ携帯 第15話 一歩目
十円クソ野郎であるこのキッズは、一度親を泣かせる必要がある。それも今までのように自分が迷惑をかけて泣かせるのではない。スマホを与えないなんて、親としてガキに対して申し訳ないことをしていたと泣かせるのだ。少なくとも俺ですら、キッズ携帯しか与えられずに中学入学に挑むガキがいるなど泣きそうだ。今時のショートメッセージなど、宝くじ当選の知らせと合わせて削除される。昔の歌のように、裏面に夢と書いたテストの紙で紙飛行機で折って校舎の三階から飛ばした方が、友達の家に届くかもしれない。翌日、昨日の夢って文字は何だと聞かれて盛り上がることができる。しかし俺は気付いた。学校に行っていないガキが紙飛行機を飛ばしに校舎に向かう悲しさ。拾ったやつがいても別に話しかけるような間柄でもない虚しさ。20点しか取っていないことがバレるだけという絶望。ホットな目頭が、涙腺が緩くなる年齢であることを知らせているようだ。
親を泣かせる。暴走行為やドラッグではない。惨めすぎて泣かせるのだ。何をしたらいいかは簡単だ。スマホを持っていないことを同級生に死ぬほど馬鹿にされたらいい。俺はここまでの一連の思索をガキに話したところ、紙飛行機の辺り以外は理解したようだ。ガキは俺に助言を求める眼差しを向けている。心配はいらない。俺は答えがあること以外喋らない。
「中学に入学したら自己紹介があるだろ?お前のありのままを語れよ」
キッズ携帯所持者という、陰毛が生えていないことを晒せということだ。当然ガキは躊躇している。陰部を隠したいのは本能なのだろう。しかし、打ち解けた後でキッズとは付き合えないと言われる方が辛いではないか。キッズと分かって付き合ってくれる、ショタコンを狙うしかない。しかし難色を示している。物分かりの悪いベイビーだ。ムーニーマンを履かせてやろうか。
俺はしばらく説得を続けた。恋人が実は整形美人だったと結婚してから知ったら多少は辛いはずだ。ただ出会った時に、自分は整形していると告げられ、顔がコンプレックスで拒食症になったという過去を一筋の涙と共に語られたらどうだろうか。後ろからそっと抱きしめるはずだ、ベイビー。後でスマホを持っていないというパイパンクソ野郎であることがバレる方がダメージは大きい。等身大で抱き合える女と付き合わなければならない。だから最初の自己紹介で、お前は裸になるんだ。自分は格闘家体型だと言い張るただのデブが裸体を見せつけるように、自分を売りこむんだ。