【書籍】日本の人事を科学する
本日は、「日本の人事を科学する」という書籍を紹介します。
著者の大湾秀雄さんは、東京大学社会科学の教授で、人事情報活用研究会を主宰されています。
本書では、なぜ人事データ活用が必要であるか、今後の発展はどうなるか?といった概念的な話だけでなく、女性活躍や定着率の向上、中間管理職の貢献の測定といった具体的な事例が紹介されています。
人事部の方がデータ活用をするにあたってぶつかるであろう統計的な問題が具体例とともに示されており、統計知識がなくてもデータ活用・統計活用のイメージができる良書と思います。
人事データの活用はなぜ進んでいないのか?
生産や営業の領域では、データを活用したPDCAを回すのが当たり前になっています。それに対し、人事や組織改革の分野では評価やそれに基づく改善策の議論にたどり着くことはまれです。
著者は、人事領域でデータ活用が進んでいない理由として2点挙げています。
人事部の社員は文系が多く、統計リテラシーが低い
これまでの日本企業の画一的な採用、キャリアトラックにおいては、経験や勘で大きな間違いは生まれなかった
しかし、グローバル化や女性活躍推進などの環境変化によりキャリアパスは多様化し、同質的な社員集団を前提とした人材開発が難しくなっています。
人事データ活用に向けて、今すべきこと
人事データ活用のために必要なこととして、以下の4点があります。
意思決定に用いたデータをすべてデジタル情報として保存し、将来に備える
人事データを一元管理する(それに伴う流出リスクには注意)
統計リテラシーの高い人を1人は人事部に配置する
統計ソフトを1つ購入する
これらに加え、「問題意識」が重要です。
統計処理上の注意点
本書では、人事データを取り扱ううえでの統計処理上の注意点も具体的に書かれています。一般的に言われる疑似相関(実際には相関がないが第三因子が影響して相関しているように見える)や、逆因果(A→Bの関係と見えるが、B→Aの関係)、サンプルセレクション問題(属性情報が偏る)などの問題を、人事データではどのように生じるか具体的に記載されています。
個人的に学びが深かったのは、単体企業内で数値を出して良し悪しを判断するのではなく、一般的な指標との比較をすることでデータの理解が深まるという点です。例えば、A社の男女賃金格差が20%であった場合、15~20%であれば全国平均並み、という一般指標と比べることで見え方が変わってきます。
データ分析で得られたTIPS
FACTFULNESSという書籍がブームになりましたが、実際の統計データを見るとでイメージが覆されることはよくあることです。
本書でも、データ分析によって得られた新たな知見が多々紹介されています。
たとえば、
・活動意欲が高く、高揚性が高くて、言語能力や非言語能力がともに低い人は1年以内にやめる確率が高い
・卒業して2~3年を過ぎると、学校の成績は、仕事の成績を予測するうえでほとんど追加的な情報をもたらさない
などが挙げられております。データを分析することで今後の意思決定や判断、施策を見直すきっかけになることがよくわかります。
感想
本書では、人事や組織改革とそれを取り巻く環境を、統計的な観点から具体的に示しているため、勉強になるだけでなく単純に読み物としても面白いので人事部や人事データ活用をされる方にはとてもおすすめです。
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