ふつうのものがたり
いつからか冬に蝉が大量発生するようになった。
長いこと土の中で眠り続け夏の七日間だけしか生きられないことに腹を立て命のルールにボイコットを起こした模様だ。
今まで従順にDNAのサイクルに従って来たことが馬鹿馬鹿しくなったのだろう。
「お母さん、蝉が降ってきたよ」
「あら、ホント。もうそんな時期になったのねぇ」
何がこの存在を存在たらしめ物事を時の流れとして確(シカ)と認識させるのだろうか?
「あ、雪だ」
「あら、ホント。もうあっという間に夏になってしまったのねぇ……つい最近まで蝉が五月蝿く哭いていたというのに……もうこの時の流れに縛られるのには疲れ果てたわ……」
人間が子供らしさを失い始めるのは時計の読み方を覚えてからだ。そこから一気に”時間”という空虚なガラクタに縛られ始める。大人という虚しさが子供という希望を一般社会という無意味な世界に引き摺り込み落ちぶれさせ堕落させる為に時間などというクダラヌ概念を教え込む。
それが素晴らしいモノだと擦り込む。正義として押し付ける。
時間は何も生まない。時間が解決するというがそれは明らかに誤りだ。解決しているのは明らかにこの素晴らしき己の心、脳幹骨髄神経細胞、血液、バクテリア、排泄物、ウイルス。
「排水溝を綺麗にする液体を人体に掛けたらどうなるんだろう……」
スーパーで中年男性がブツブツと呟く。
彼にとってはそれが普通で充実した”今”を過ごしているのだが正義中毒患者が無理やり強引に彼のテリトリーに押し入り彼を痛め付け始める。
「お前は、クズだ」
何故人は人を許すことができないのだろうか?何故人は人を罰しようとばかりするのだろうか?
物事は成るようにしか成らないのに。人が何かしなくとも母なる自然が必ず淘汰してくれるのに。
傲慢だ。
人間は傲慢だ。
全てを赦そう。
すぐさま許して先へと進もう。
宗教法人”ゆるしの哲学”のTVCMが今日も耳障りな程電波を伝いこの五感を刺戟する。
そもそも人が人を許そうとしたりすること自体、傲慢なのかもしれないね……。
鬱陶しい耳鳴り。
時折夢か現実か分からなくなる。
ホルマリン漬けされた脳味噌が目に浮かぶ。
僕のモノかは分からないが確かにその脳味噌には無数の電気コードが繋がれている。
一体いつから僕はこの肉片に入れられ自由意志ごっこに耽らされているのだろうか?
一体いつからこの虚像の世界に繋がれ飼い慣らされているのだろうか?
仕掛け扉の向こうにはまっさらな空間が広がっていて男も女も嘘も真も何も無い。
そんな気がするんだ。
水中で頭上を見上げ気泡の美しさに酔いしれる。
どんどんどんどん沈んでゆく。
どんどん、どんどん、造り物のような水中の景色が何かに吸い込まれるように上がってゆく。
あれ?
もしかしてもう僕は既に死んでいるのかな……。
「ハハハハハ、本来人は不死!死になどしない!ただ単に人を死に至らしめるウイルスに侵されてるだけなんだよ!」
僕はなんて弱いのだろうか。そんな病原菌に支配されてしまっているなんて……いや、待てよ。まだ僕は生きているのだから死のウイルスに侵されているとは限らないじゃないか。何を言っているんだ。頭が可笑しい馬鹿野郎め。僕は至極純粋に頭が可笑しいみたいだ。
この可笑しさは遺伝によるものなのだろうか?
死のウイルスも遺伝によるものなのだろうか?
だとしたら僕は生まれながらの負け犬だ。
だとしたら僕は生まれながらのバッタもんだ。
「全部ウイルスのせいなんだ!」
人間同士の争いがいい例だよ。
環境破壊もそうだよ。
全てウイルスに操られているが故なんだよ。
あなたがゾンビでない証拠は?
あなたがウイルスや病原菌、細菌やバクテリアに操られていないという確証は?
「そんなの分かるはずもないだろうこのネガティブ人間め!!!」
ブツブツブツブツ心が煩い。
「変わりたかったんだろう?俺もそうだった。自分のことが嫌いでさぁ……今いる環境から抜け出して関わる人間を変えればすぐに変われるよ。飽きただろう?劣悪な人間でいるのも」
「なるほどぉ!”痛みを取り入れ飼い馴らせ”ってかぁ!」
「違うよ」
「僕はウイルスを完全に制御して魅せたんだ!!!口出しするなぁ!!!」
「ごめんなさい」
人を操る奴らは程よく汚い方がいいみたいだ。
「ママ、新しいお父さんだよ」
「わあい」
たくましい体型、怖いくらい優しい微笑み。
彼は本当に信用していいのだろうか?
疑念がドクドクと湧き上がって狂う。
それは義理の父も同じだったみたい。
「その疑念は正しい。彼は家族を奪う。そして全てを吸い尽くすまでやめないよ」
彼の元の顔は誰も知らない。謎の小さな男以外は。
いつでもコートを着てヒビ割れた仮面を被った小柄なその謎の男以外は。
そうして先生は咥えさせる。
「インスピレーションは降りてきましたかぁ?」
「あぁ」
「それではいち早く戻りましょう!いち早く作品を完成させましょう!」
「今回は、曲だ。エレクトリックギターを用意しといてくれ」
「はい!」
「母子家庭も頼むよ」
「はぉい!」
SEXなんて本当に大切な人と生涯で一度だけでもできたらそれでいい。
それが本当に気持ちのいい満足感に溢れるSEXだから。
「なんで生まれてきたのかが本当に分からないよ」
「理由なんてないんだよ」
「じゃあ、死んでもいい?」
「それは、ダメだよ」
「何故」
「死は悲しい」
「じゃあ喜びにしようよ!」
「コメンテイタアの貴方様はどうお思いますかあ?」
「はい。急逝(キュウセイ)急逝と世間は騒ぎますが大体の死は急逝だと思います」
「ハハハハハ」
「そもそも何故”死”というものを暗いニュースにしてしまうのでしょうか?」
「ハハハハハ」
「そろそろ死を喜びにしませんか?」
「ハハハハハ」
「死ねたんだサイコーじゃん!!!ですよ!!!」
一方その頃、決勝戦では、漫才コンビ、”テツガクシソーミーエンミー”が饒舌をふるい始めた。
(ボク)「いやぁ~死って救いですよねぇ~」
(僕)「いやいやいや全然全然ただの絶望だから」
(ボク)「あ、そうだよね」
(僕)「うん、そうだよ」
僕も僕の中の僕とボクについて考えてみたところ、彼らと同じように僕がまとも真面目ツッコミでボクはぶっ飛び思想連発ボケだ。
考えがまとまり頭がスッキリしたところで日課のお散歩に出かけてみた。
「アナタは仮想現実だ!アナタは仮想現実だぁ!!!」
一人の中年男が街ゆく人々にそう叫び散らかしています。
しばらくするとお巡りさんがやってきました。
「お前らお巡りも仮想現実だ!お前らお巡りも仮想現実だぁ!!!」
するとお巡りさんたちは妙な音と光を発して消え失せてしまいました。
この世はゲーム。
知ってるよ。
だから13歳の時のメールアドレスにGAMEという単語を入れたんだ。
そこから僕の人生はお遊びと化したよ。
しかしながらこの世界のプレイヤーはとんでもなく下手糞だな。
僕らはデイタ。
ゲームの中の存在。
だとしたら携帯を眺め俯く人々は神だ。
僕らは神だ。
幾重にも折り重なった虚像世界の神だ。
しかしながら辛過ぎるよ。もうこのプログラム酔いには我慢ならない。
揺れ動くこの画面を一刻も早くぶち壊してしまいたい。
「やめておいたほうがいいよ。激動を生きなければ美しくはならないんだから」
そう、激動を生きなければ脆い蓄積物のまま。
自然も絶景とそうでない風景が。
人もおんなじ。
スターとそれ以外。
ビジネスのせいも少しあるが、美醜は自然の摂理なのかもしらない。
「おはようございます、太陽の光。今日の朝のお祈りは、”ウイルス戦争が終息しますように”と、”あのアイドルさんが本当の愛を見つけられますように”です」
親が悪い?周りの人間が悪い?
どんな環境で育って来たのか知りたい。
何故ここまで病んでしまったのか知りたい。
芸能活動という無意味さ。アイドルは闇。
「ほっとした顔キラキラほっとした顔キラキラ〜!!!」
まだ月が完全に沈まないうちに登り始める朝日。
僕の心はウキウキ。
ネズミに懐く、みほとけ般若。
そんな今日この頃、とある男性が、毛虫やミミズをスコップで切り刻んでいます。
「気持ち悪い気持ち悪い」
「あなたの方が、気持ち悪いよ」
と、言ったやりたいところですが、僕はただの百足なので地べたを這いずり回ることしかできません。
小鳥たちは細かく刻んでくれてありがとうと歌っていますしね。
本日は晴天ナリ。
しかしながら人間が邪魔で邪魔で仕方ありません。
「そうか、僕は地球なんだ!地球が僕なんだ!僕の中で僕は、全ては、生きているんだ!そうすれば全て辻褄が合うぞ!こんな当たり前のことに何故今まで気が付かなかったのだろう!?僕は馬鹿だ!僕は天才的な馬鹿だ!てんさいてきなばかだぁ!!!」
壁が揺れ透け始める。
排尿の度ボクは擦り減る。
もう少しで答えが見えそうなのに、ボクの脳のリミッターは強固。
いつだってこの世界はイエスマンなのに、人はいつだって抑圧してノーだ。
カナリアの鳴き声ってどんなかな?
今日も車の音が煩い。
目が焼ける目が焼ける。
この世界の煩悩の膨大さに目が焼ける、目が焼ける。
五感使ってフルに希望を感じたい。
こんな世の中だからこそ、本当の愛が見つけられそうな気がするよ。
さようならさようなら。
柵だらけの過去の全てに。
さようならさようなら。
絶望塗れの過去の全てよ。
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