「婦人文芸」103号
同人雑誌「婦人文芸」は、戦後から続く歴史ある文芸誌である上に、現代の社会を描く、筆力の高い作家の揃っている雑誌だ。
私は縁あって25年くらい前から参加させてもらっている。昨年末に刊行された最新刊が103号だ。
「婦人文芸」の旧ホームページがまだウェブ上にあった。
http://home.d04.itscom.net/fujinbun/ayumi.html
103号の目次はこちら
第二回全国同人雑誌大賞の奨励賞、百号賞を受賞している。2023年に大阪で受賞式が行われた。
さて、その感想をつらつらと書いている。
都築洋子作「猫と宇宙人」
元ホームレスという女性を視点人物にした短編で、生活保護受給者を主に受け入れているアパートでの人間模様が描かれており、着眼点の良さが際立っていると思った。おりしも、バス停で亡くなったホームレス女性のノートが出版され話題になっており、また、貧困が身近になっている昨今の社会状況をよく捉えている。映画「すばらしき世界」(西川美和監督)のことも思い浮かんだ。
短編の中にかなり多くの登場人物がいるので、それぞれの人物の説明をするのに忙しく、物語の展開の説明が少し足らず、読者が置いていかれている印象もあった。
また、これも短編ゆえに端折ったのだと思うが、登場人物を深め切れていない。表面を触っただけの感じがした。特に作家志望、俳優志望の二人は個性に欠けた。
秋本喜久子作「会えない孫たち」
孫に会えない気持ちから端を発して、来し方を語っている。
淡々とした語り口、わかりやすい説明の仕方、洗練された文章は秋本さんの文章の鍛錬を想像した。天真爛漫な文章を読むことが今後も楽しみだ。
森美可作「ある尼僧」
旅行記ではなく小説、となっているのは、全部が全部そうでなくても、どこかフィクションの部分があるのだと思う。実際のこともあるのだろう。流麗な筆致で、旅行者の見た光景を難なく伝えることができるのは作者の腕の良さが現れていると思った。
内容を考えてみると、旅行先での驚きが主眼になっているので、ストーリーがあるとは言えない。印象はやはり旅行記だった。全てが真実ではないから、という作者の誠実さが「小説」と記載させたのだと思うが、芭蕉だって「おくのほそ道」で真実を書いてないのだから、旅行記や紀行文でよかったのではないか。
しかし、そう思っている私は作者の術中にハマっていて、そもそもモンゴル旅行そのものが作者の作ったフィクションで、一から全て創作なのかもしれない。
読者にこの作品をどう楽しませようと思ったのか、作者の意図が気になる。
野間悠子作「火の玉夫人」
澤田美喜が運営した混血児の孤児院のことについて、作者の実際の経験も合わせて綴られている。語るべき内容が多く、その背景の説明も込めようとして、一文で欲張ってたくさんのことを言おうとしている印象なので、もっとゆったり構えていいのではないかと思った。しかしながら、澤田美喜の活躍を短い文章でよくまとめて伝えている。素直に彼女の偉業に敬服の気持ちを持てたのは、作者の気持ちが行間から伝わったためだと思った。
大場南作「緑陰の少女たち」
小説、と銘打ってある。短編小説を読み始めるワクワク感を、登場人物の一人一人の登場を読みながら味わうことができる。女子校なのか、宗教色の濃い学校で幼い時から青春時代までを過ごした友達との、少女時代の逸話。その逸話を回収するように、大人になってからの物語が展開する。少女が社会人になって人生を歩んでいくのは古今東西同じであるが、彼女らの精神性は時代背景をしっかりと背負っていて、書き分けられた性格にも、戦後の日本の女性たちが持っていた人生観や個性が描かれていて面白かった。
しかしながら、これは小説なので、中心的な四人の話が終わったらこの短編も終わってよかったのではないか。終盤の「思い出」の列挙は不要だったように思う。桐子と明子の秘密が薄らいでしまうように感じた。
残りの作品の感想も早めに書いて主催者に送る予定です。
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