精神科救急医療実録2 第1話 それでも、あなたは自殺を心から止めれますか?
今回は、精神科救急医療実録2第1話として、自死にまつわる話を伝えさせて頂けたらなと思います。
皆さんは、自殺はいけないことだと思いますか?
ある時まで、私は自殺は漠然と止めなければならないものだと思っていました。
でも、今は何が正解かわからなくなっています。
※個人や事例の特定ができない様に事実を一部改変しています
ある日の救急当番
その日の救急当番日は比較的、穏やかで、受診相談の電話も鳴らずに過ぎていきました。
あれは、確か冬のことだったと記憶しています。
23時を過ぎたころ、電話が着信を告げます。
電話は、保健所からで自殺企図の方の診察依頼でした。
受診者
保健所からの提供された情報の要点は、
・16歳、女性
・愛護手帳(療育手帳)を所持者
・母親と口論となり、希死念慮を訴え自殺企図を図ったため110番通報
・興奮状態で自傷の恐れがあるため、24条通報(警察官通報)により、保健所へ連絡
といった内容でした。
外傷や、他科での疾患の有無を確認し、精神科救急医療の適応と判断し、依頼を受諾します。
受診
診察時の患者(以下、Aさん)は落ち着いている様に見え、同行している保健所職員と笑いながら話していたのが印象的でした。
診察中は、主治医の問診に答えながらも
「ねえねえ、お兄さん、名前なんて言うの?」
「この病院で働いて長いの?」
などと、人懐っこく聞いてきました。
診察は和やかに進み、Aさんも落ち着いていたため、入院は必要ないと判断されますが、念のため1日だけ入院することになります。
自傷の恐れはありましたが、本人の状態が落ち着いていたため、保護室は不適応と判断され、女子急性期病棟への入院となりました。
深夜の相談
3時を過ぎたころ、女子急性期病棟から内線が入ります。
Aさんが相談したいことがある。
と、のことで私は病棟に向かいました。
病棟に着くと、状況を看護師に確認します。
どうやら、入院後に当直医、看護師と面談を希望し、私にも同様に面談を希望してきたようでした。
当直医や看護師に相談していた内容は、生活上の悩み、昔しの学校でのこと、死にたいと思ってしまう気持ち、とのことでした。
幸い、仲の良い看護師だったので、
「何でこんな時間に面談しているんですか」
と尋ねました。
「詰所の前を離れないから...寝るように伝えてるんだけど」
病棟は消灯後も詰所は電気が点いています。面談をしないと、そこにずっと座っているとのことでした。
私は、看護師に面談の同席を求め、Aさんを呼びにいってもらいました。
「あー、お兄さん、うちのこと覚えてる?」
ドアを開けると同時に、高い声で人懐っこく言いました。
「うん、覚えているよ」
「嬉しい、お兄さんは何をしている人なの?」
などと質問をしてきました。
相談の意図
「ねー、うちのこと、どう思う?」
「どうとは、どういうこと?」
突然の脱線した質問に、少し戸惑いました。
Aさんの話しの内容は、
・中学3年生の時に母親と喧嘩し自宅の3階から飛び降り精髄損傷
・以降、歩行困難となり、歩行補助器や補装具が必要となった
・下半身の感覚はなく、尿意や便意は感じない
・こんな身体になって生きていくのが辛い
とのことでした。
「うち、結婚できるかなー」
「結婚したいの?」
「うん、V6の岡田君みたいな人と恋したい」
「そうなんだ、なら、ちゃんと身体を治さなきゃね」
「うん、ありがとー」
面談は20分ほどで終わりました。
面談を終えると、看護師から
「ごめんね」
と声をかけられました。
「別に、構いませんが、大丈夫ですか?」
「さっきまでは泣いてたんだけどね」
「そうなんですね」
と答えながら、Aさんのカルテを開き、面談の内容を記載すると、主治医や看護師が記載した内容にも目を通しました。
私は看護師に尋ねました。
「先生、何か言ってました?」
「特に何も、頓服の処方箋はもらったけど」
「病名は知的障害なんですね」
「手帳があるからねー」
「まー、そうですよね。一応、前の病院に診療情報提供書の依頼はしておきます」
と、伝えて病棟を後にしました。
退院
その後、病棟から連絡はなく、Aさんは昼過ぎに祖父母の迎えで退院していきました。
私は午前中に児童相談所のケース記録と前病院の診療情報提供書を依頼し、入手していたので、目を通しました。
Aさんが訴えた以外での要点は
・母親も知的障害で生活保護を受給している
・祖父母は特に生活上の問題はなく神経・精神科の既往はない
・義父に性的虐待を受けたと訴え、児童相談所が介入
・性的虐待が実際にあったかは疑問視されていた
・病名は軽度の知的障害とパーソナリティ障害(疑)
・不安、不眠、希死念慮から薬物治療中
と、いった内容でした。
私は、外来カルテ用、入院カルテ、ケース記録用に2部ずつコピーすると、病棟に向かいました。
Aさんとの救急当番日での関りは、大きな問題もなく終わっていきました。
ケース内容の複雑さを、表面上は認識していたものの、その後、Aさんと深く関わっていくことになるとは、思ってもいませんでした。
精神科救急医療実録2 第2話へ続く
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
このコラムは私の個人的な知見に基づくものです。他で主張されている理論を批判するものではないことをご理解いただいたうえで、一考察として受け止めて頂き、生活に役立てて頂けたらと思います。
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