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【小説】渡辺優『私雨邸の殺人に関する各人の視点』

【あらすじ】

嵐の私雨邸に取り残された11人の男女。
資産家のオーナーは密室で刺殺され、世にも珍しい〈探偵不在〉のクローズド・サークルが始まる。
館に集ったのは怪しい人物ばかり。いったい誰が犯人を当てるのか。各人の視点からなされる推理の先に、思わぬ悲劇が待っている。

【感想】

今年度は頑張って新刊ミステリを読んでいこうと決意した5月末辺りに、既に発売されていた新刊を片っ端からリストアップしていって、それを片っ端から読んでいっていたのだが、本書は今の今までノーマークだった。

媒体は忘れたが、何らかのSNSでタイトルを見て、あらすじを読んでみた所、どうやら古き良きコード型の本格ミステリっぽかったので、物は試しと購入してみた次第。

どうやら著者は文学畑の人らしい。
趣味は読書とか宣っておきながら、純文学とやらには一切の興味を持てない人間なので、代表作は勿論、名前すら聞いたことのない作家だった。

畑違いの作家がミステリを書いた場合ありがちなのが、サプライズありきのトリック小説に終始することだ。

しかし本書はどうして、端正なロジックが愉しめる良質なガチガチの本格ミステリに仕上がっている。

それも
・とある曰くのある館に
・多種多様な人間が集まったが
・豪雨により陸の孤島と化し
・密室内で館の主人が殺される
という昨今ではあまりお目にかかれない、古臭い舞台が用意されている。

さらに、読み進めるにつれ登場人物たちが妖しげな動きを見せ始め、誰が犯人でも可笑しくない展開となる。

裏を返せばあらすじにもある通り、誰が探偵役となるのかも検討がつかない。

そして訪れる解決編では、各々が持論を展開し、多重推理の様相を呈するも、いまいち決定打にかける。

満を持して声を上げた真の探偵が語る推理は、それまでの誤った推理を土台に、消去法のロジックで犯人を指名する。

正直、みんな怪しい状況故、真犯人が明かされても驚きはないのだが、しっかりと腑に落ちる端正なロジックが披露されるので僕はご満悦だった。

何はともあれ、めちゃくちゃ地味な作品ではあるので、話題が沸騰することはないだろうけど、マニアの皆様には是非とも読んで欲しい一冊。

このミス、文春なんかではランクインするのは難しいだろうが、本ミスであれば10位圏内も狙えたりするのではないだろうか。

7月中旬の今現在では、これと言って突出した本格ミステリも無いように思う。
本格度だけで言えば、やっぱり麻耶雄嵩『化石少女と七つの冒険』が頭ひとつ抜けてる気もする。
僕の好みで言えば井上真偽『アリアドネの声』。

まあ、例年ここから本ミス常連作家の新刊が波のように押し寄せてくるので、勢力図もガラッと変わるだろう。

僕も頑張って喰らい付いて読んでいかなければ…

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