【小説】高野和明『踏切の幽霊』
【あらすじ】
【感想】
あまりにも装丁が僕好みでつい手に取ってしまった。
高野和明作品は乱歩賞受賞作の『13階段』と『幽霊人命救助隊』を読んだことあるくらい。
代表作であろう『ジェノサイド』はいつか読もうと実家の本棚に眠ったまま10年ほど経つ。
帯で知ったけど、ジェノサイド以来の新刊なんだね。
『幽霊人命救助隊』の内容は忘却の彼方だが、『13階段』は死刑制度という、社会派ミステリに於いて最も扱いが難しいであろうテーマに真っ向から挑み、見事に我が物とした良作だった。
今作『踏切の幽霊』はどうかというと、貧困、セックスワーカー、政治家の汚職など社会派的なテーマを扱ってはいるものの、物語の根幹は1人の女性が此の世に確かに存在した軌跡を辿る人情ミステリーであり、非の打ち所がない最高のエンタメ小説だと思う。
妻に先立たれ、失意の中でただ生きているだけの雑誌記者である主人公が担当することになった心霊写真の特集記事。
調べていくうちに心霊写真に写る幽霊と同じ風貌の女性が1年前に現場となった踏切で殺害されていたことが判明する。
女性の身元は何一つ判明していないが、犯人は捕まっており、被害者の身元が不明のまま事件は結審を迎えようとしていた。
主人公は新聞記者の遊軍部隊であったころのコネを使い、なんとか被害者の身元を明らかにしていくという物語。
“謎の女の正体に迫る”という字面だけ見ればありふれた内容ではあるが、そこは高野和明。形骸化したありふれたストーリーとはならないのでご安心を。
踏切という舞台に関する知識、雑誌記者という職業が如何なるものか、心霊記事を書くにあたっての心構え、これら全ての要素がしっかりと裏打ちされ、”幽霊”という非現実的なテーマを扱っていながらも、リアリティ溢れる1冊となっている。
じゃあミステリとしてはどうかと言うと、特段優れている訳ではない。
あらかじめ言っておくと、本書に”意外な結末”というものはない。
全てが収まるべき所にスッと収まる。
唯一、ミステリ的な謎となっていた
”なぜ被害者女性は瀕死の重傷を負いながらも、公衆電話を素通りし50メートル以上も離れた踏切まで歩いたのか”
に対する解答が最高だった。
一切奇を衒ったりせず、物語に、より一層深みをもたらすもの。
ページを捲る手が止まらず、徹夜で読了したのはいつぶりだろうか。
ミステリとして高評価を得ることはないかもしれないが、このミス、文春あたりでは健闘して欲しい。
密室、首切り、見立てなんて物騒な本ばかり読んでニヤニヤしている僕みたいな人間こそ、たまにはこういう浄化作用のある小説を読むべきだろうね。
超オススメ。
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