糸井重里さんにいただいたキャッチコピー【前橋BOOK FESクラウドファンディング】
人生のお守りになるようなことばをもらいました。
コピーライターの糸井重里さんから。そのことばが生まれるまでのやりとりは、きわめて短い時間だったけれど、あの時の対話は今もぼくのこころの中で続いています。
ことの経緯は、昨年の夏に遡る。
Twitterのタイムラインに、『前橋BOOK FES2022』(群馬県前橋市で開催される本のお祭り)のクラウドファンディングについてのツイートが流れて来た。リターンはいくつかあり、目玉は糸井重里さんにコピーをつくってもらえるという。価格は10万円。破格だ。きっとこんな機会、もう二度と訪れないんじゃないかと、ぼくは迷うことなくタップした。
ぼくの中で糸井さんは、人生で一番好きなゲーム『MOTHER2』の生みの親であり、『おちこんだりもしたけれど、私はげんきです。』であり、『おいしい生活。』であり、『本読む馬鹿が、私は好きよ。』であり、永ちゃんの『成り上がり』を編集した人であり……と、枚挙にいとまがない。人それぞれの中に、めいめいの“糸井重里”が住んでいるのではないだろうか。
そして、もう一つ。
以前、アートディレクターの秋山具義さんの著書『世界はデザインでできている』(ちくまプリマー新書)を一緒につくらせてもらったことがある。その制作の中で、具義さんから糸井さんとのお話をたくさん聴かせてもらった(ちなみに「ほぼ日」のサルは具義さんのデザイン!)。とにかく糸井さんは具義さんにとって憧れの存在であり、スターだった。糸井さんの話をする時はいつも、背筋が伸びて、吟味されたことばには弾みがあった。
ぼくが尊敬する具義さんが、さらに尊敬する人。糸井さんとのお仕事について話してくれる具義さんの表情が大好きだった。
その糸井さんが、ほぼ日のコラム『今日のダーリン』で、『世界はデザインでできている』について書いてくれた。それは、糸井さんの想う、具義さんのお話。
文末にはこう書かれていた(“アッキィ”とは秋山具義さんのこと)。この日の『今日のダーリン』を読んで、「この文章を読むために、本の制作に関わらせてもらったのかもしれない」と思った。二人の関係性、その物語を味わうために。それはあの本を通して得た、ぼくだけのたからもの。
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糸井さんにコピーをつくってもらうのは、“ダイアログ・デザイナー”という肩書について。そして、昨年末、オンラインでの打ち合わせが行われた。
キャッチコピーはもちろんそうだけれど、聴き手としての糸井さんと向き合えることは10万円以上の価値があるんじゃないだろうか。どんな聴き方をするのか、どんな問いを置くのか、どんなことばの選び方をするのか。そこで行われるすべてを学びたい。
糸井さんにとっては、数多いる中の一人かもしれない。
でも、ぼくにとってこれ以上特別な時間はない。
あっという間だけれど、濃密な、対話の時間がはじまった。
糸井さんとの対話
「ああ、こういうことか」と思った。人の話を聴くということは。
糸井さんが真剣な顔をして、「うんうん」とうなずきながらぼくの話を聴いてくれた。きっと、糸井さんにとってはあたりまえのことで。何も意識はしていないように思えるのだけど、こういう人の耳におもしろい話は集まるんじゃないだろうか、と。目の前のぼく(迷っている姿を含めて)を尊重してくれているような「聴く」がそこにあった。
こうやって聴いてもらえると、不思議と新しい何かが生まれそうな期待感が湧き上がってくる。こんなふうに、人の話を聴けたら。
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糸井さんの問いかけは、ズバッと切り込みながら、同時に患部を修繕しているような感覚で。それは、ことばの選び方とか、投げ方とか、置き方とか、間とか、表情とか、うなずきとか。
短い時間で、誰かの本質的なところに入ってゆくというのは、立ち入る勇気と、修繕するやさしさや技術が必要なんだと思った。
いろいろ質問してもらったし、いろいろお話させてもらったけれど、どれもウィスキーボンボンみたいにやわらかい質感で、形にするそばから溶けていって。うまく答えられないこともあるのだけれど、楽しくて。それでも、糸井さんはちゃんと解決しようと前に進めてくれて。
そして、最後に伝えた。
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嶋津:あと一つだけいいでしょうか。文章を書くことも、対話もそうですが、ぼくは“関係性”というのを大切にしていまして。
ぼくが糸井さんのことが好きなのは、ことばもそうだし、お仕事もそうなのですが、関係性の築き方が好きで。家族、仲間、クライアントさんとの関係性。その関係性の築き方が魅力的だから、惹かれる部分が強く。その関係性の在り方や育て方を見て、「すてきな人だな、すてきな仕事だな」と思うんです。
良い関係性を築いてゆくことは、ぼくのことばに置き換えると対話で。対話があると、たとえばパートナーと言い争ったとしても、良い形でやり直すことができる。もっと言うと、一人ひとりが心構えとして対話があると、争いごとは減るんじゃないかと思っているんです。
少なくとも人の話を聴けるようになる。全員が独り言をわーっとしゃべる状態にはならない。そのカルチャーを伝播していきたいという想いを「ダイアログ・デザイナー」という名前に込めていました。
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良き対話は、その時だけに留まらない。余韻というか、残響というか。終えた後も、問いかけてくれたり、提案してくれたり、じっと耳を傾けてくれたり。ずっとからだに残ってえんえんと対話はつづく。世界の映り方が変わってゆき、ある日突然ピンとくる。
糸井さんとお話して、この一、二ヵ月。そんなふうに世界が移ろってゆくのを鑑賞していた。
先日、前橋BOOK FES実行委員会の事務局からキャッチコピーが届きました。
届いたのは、二案。
キャッチコピーからコミュニケーションがはじまる。対話のきっかけをつくってくれるようなことば。
ある意味、ぼくが対話を考えてゆくための「問い」でもあることば。もしかすると、誰かに届けるというより、ぼく個人へ送ってくれた「問い」なのかもしれません。
どちらも、人生のお守りになるようなことば。うれしい。ありがたい。糸井さんからいただいたことばが、ぼくを勇気づけてくれるし、あの日のことを思い出させてくれるし、問いかけてくれる。
どんな車を買うよりも、服を買うよりも、レストランで食事するよりもずっと価値がある。これからの人生、このことばをお守りにして生きていけるのだから。
そう思ってもらえる対話を、ぼくもつくっていきたい。
そして、それを文章に落とし込むライターでありたい。
みなさん、これからもダイアログ・デザイナー嶋津をどうぞよろしくお願いいたします。
※いただいたキャッチコピーは、『前橋BOOK FES』クラウドファンディングのリターン商品です。