見出し画像

絵本作家 谷口智則さんライブペインティング&読み聞かせ@おにクル

本日は、大阪府茨木市の複合施設「おにクル」開館一周年記念イベントとして、絵本作家の谷口智則さんのライブペインティングと読み聞かせを開催しました。

谷口さんの絵本には、ユニークでかわいい動物たちがたくさん登場します。ことばたちはリズミカルで声に出して読めば楽しく、ふと考えさせられるような哲学的なテーマで物語は展開します。

作品たちは日本だけでなく、フランス、イタリア、中国、台湾、カンボジアなど海外でも翻訳されています(年末には韓国でも!)。国境を越えて、年齢を越えて、長く愛される理由は、絵と物語の力。人間の琴線に触れるのだと思います。

『ダイアログ・ジャーニー』でも以前インタビューさせていただいております。

おにクルは、建築家の伊東豊雄さんの設計した建築です。

わたしも今回、ファシリテーターとしてイベントに関わらせていただくことで知ったのですが、その空間設計にはさまざまな想いが込められています。

たとえば、七階まで各フロアを貫く吹き抜けには、螺旋を描くようにして昇るエスカレーターがあります。これは「縦の道」と呼ばれ、さまざまなエリアに息づく音や空気を感じ、それらが溶け合い、偶然の出会いから生まれる何か(それを“物語”と呼ぶのかもしれません)に祈りを込めるかのようなしつらえとなっています。

今回のイベントでも、おにクルに来て、図書館で本を借りたり、マルシェでときめく何かを手に取ったり、ライブペインティングを見たり、隣に座る誰かと会話したり、笑顔を共有したり……さまざまな偶然の出会いから起こる奇跡が起こればいいな、と。そのような想いで臨み、来て下さった方を一人ひとり歓迎し、同じ空間にいる歓びを共有し、物語を共につくりながらも、それぞれの小さな物語を持って帰ってもらいたいと、ことばにこころを込めました。

茨木童子の鬼をテーマに、四枚のキャンバスに、お客さんからのリクエストを次々と描く谷口さん。キーボード奏者のかっぱさんが音楽と読み聞かせで盛り立てます。その「場」にいる人たちと、音楽を通して一体化し、小さな対話を重ね、谷口さんの描く絵の物語の一部へとなってゆく。とても刺激的であり、こよなく愉快であり、一つひとつのご縁を愛おしく感じる時間です。

谷口さんが描いた動物たちに、色を塗る時にわたしがいくつか質問をします。六色ですべての色彩を表現する谷口さんに「好きな色は何ですか?」と訊いた時の答えが印象的でした。

「ぜんぶの色」

すべての色がなければ描けないから、ぜんぶ大事。一つひとつの色を愛おしく想うその姿にときめきます。

また、即興で動物を描く谷口さんの筆に迷いを感じないので「谷口さんは描き損じることはあるのですか?」と訊ねると「失敗することはないですね」と答えました。さらに「下書きをすることもほとんどありません」と。よく聴けば、消しゴムも持っていないと言います。一本一本の線に生命が宿っているように感じる理由がわかったように感じました。

さらに控室でもインタビューは続きます。

「谷口さんにとって“運”とは何ですか?」

運の研究をしているわたしは、すてきな方にお会いする度にこの質問をしています。この問いに、谷口さんは答えました。

「ぼくって運がいいんですよね。自分で決めて、行動する人にはきっと運は流れてきます」

「そのお考えはいつ頃からですか?昔から?それとも、何かきっかけがあったのですか?」

「昔はそうではなかったですよ。一人でパリに行って活動するようになったからですね。大きく変わりました」

フランスの出版社にお声かけされて、谷口さんの絵本は海の向こうでベストセラーになります。パリに呼ばれる機会が増え、一人で足を運ぶようになりました。海の向こうで、一人で行動して、決断し、進む道を切り拓いてゆく。実際に、その状況に身を置いたことで運が向いてきたと谷口さんは話してくれました。

谷口さんは今年、絵本作家としてデビュー20周年を迎えました。先日、谷口さんが営むギャラリーカフェzoologiqueに行き、記念にデビュー作の『サルくんとお月さま』を買って帰りました。

ここから、絵本作家 谷口智則ははじまったのです。

ライブペインティング中に、「この20年の間で、うれしかったことは?」と訊ねると「絵本を読んでくれた子どもたちの笑顔を見た時。子どもたちが喜んでくれている光景を想像しながら絵を描いている時」と答えてくれました。子どもたちの笑顔が、絵本作家としての谷口さんを育てていったのかもしれません。

最後に「21年目、これからの想いは?」と訊ねると、谷口さんは動物たちに色彩で生命を与えながら答えてくれました。

「世界中の、もっと、もっとたくさんの人に、ぼく絵本が届くように。それから、一人ひとりにサインをしていきたいです」

谷口さんの描くサインは、とても丁寧です。驚くかもしれませんが、一人ひとりすべて違う絵なんです。相手の好きな動物を訊いて、それを描く。するとどうでしょう。そのサインした本は、世界に一冊だけの特別な絵本になります。

妻の名前が「朋子」なので、サインにはお月さまを描いてもらいました。

20年経つと、当時赤ん坊だった子が大人になっています。絵本は記憶と共に脈々とその人の物語として息づいています。実際に、イベント会場には10年前の初版本を持ったとあるご家族の方が来てくださっていてインタビューの中で「ちょうど子どもが生まれる前に手にした本なんです」と話してくれました。絵本は、買ったところで終わらない。むしろ、手にしたところからその人の物語となってはじまるのです。それを、ある時はギャラリーカフェで、ある時はイベント会場で、谷口さんに会いに来た人たちがそれを教えてくれます。

絵本をつくり続け、届け続けるほど、一人ひとりの物語が豊かに育ってゆく。その個人的な物語を聴かせてもらうことは、まさに奇跡のようにきらめいた、甘やかな体験です。

谷口さんは、絵本の物語を描きながら、それを手にした人の物語の種を蒔いているのかもしれません。なんて、すてきなのでしょう。

すてきな絵が完成し、大盛況のうちにイベントは幕を閉じました。

コットンキャンディが口の中で健やかに弾けるような、小さな奇跡たちをみなさんと一緒に味わえたような心持ちです。イベントを企画してくれた妻、運営してカタチにしてくださったおにクルの方々、そして、この場をご一緒できたみなさんとのご縁に感謝します。




この記事が参加している募集

「ダイアログジャーニー」と題して、全国を巡り、さまざまなクリエイターをインタビューしています。その活動費に使用させていただきます。対話の魅力を発信するコンテンツとして還元いたします。ご支援、ありがとうございます。