ひろゆき論
『働き方 完全無双』を読みました。
この人の頭の良さと発想力にはいつも驚かされます。
せっかく本を読んだので、僕なりにひろゆき氏を色々と分析してみました。
ひろゆきの幸福論。
本書はひろゆき氏による『幸福論』です。
「これからの時代、どのようなメンタルで生きれば苦しまないか」
ざっくり言えば、この一行に尽きます。
「幸せになる」よりも「不幸にならない」ための提案です。人と比べることなく、幸せの基準値を下げることで日々のラッキーを増やす。その方法は明確でありながら、いとも簡単なものばかり。
「会社を起こして経費で落とせるようにする」や「新しいサービスは積極的に活用してワンチャン狙う」などの実務的なアドバイスが半分と、残り半分はマインドの部分。
とにかく、傷つかない心をつくる訓練です。
そのマインドセットは「侘寂」スタイル。
見かけではなく、内側の感性を豊かにする教えです。
・おいしいものをたくさん食べるよりまずいものを減らす
・お洒落な服にお金をかけるより、毎日着る服の選択肢を減らして判断力を消耗しないようにする
など。
感じ方をトレーニングすれば、何事も「幸せ」と思えるようになるということ。
ひと昔前の「消費」=「幸せ」という考え方は不幸へまっしぐら。
「消費」に幸せを感じていては先細りする日本経済ではうまくやっていけない。それよりも「生産」=「幸せ」というマインドをインストールした方が個人にとっても国家にとっても健全なことなんですね。
「資産運用をして、マネーゲームでお金を増やして行く」というステレオタイプのIT系社長とは違い、ネット出身者の有名人では珍しく堅実な考え方ですよね。
ただ、僕には「ひろゆきの幸福論」というのは本書の表テーマで、裏にはもう一つのテーマがあると推測しています。そちらの方がひろゆき氏にとっては重要で(もしかしたら日本にとっても重要なのかもしれない)。
その下味にこそひろゆき氏の快楽(本音)が隠されており、読者の無意識へとゆっくり浸透していく働きがあります。本書を読み終えた頃には、爽快感と安堵感が同時に押し寄せ、「気付かないうちにマインドが書き換えられている」といった具合に。
そういう意味では、これは禁断の書物です。
その辺りを踏まえ、『働き方 完全無双』から読み解く僕のひろゆき論を紹介したいと思います。
もはや知らない人もいないでしょうが、ひろゆき氏というのは、
インターネットの匿名掲示板「2ちゃんねる」を開発し、「ニコニコ動画」という動画にコメントを付けるサービスを開始した人です。2015年には英語圏最大の掲示板「4chan」の管理人に。プログラマーであり、企画立案者、サービスの運営、最近ではテレビにも積極的に出演されています。
本書の裏テーマに行く前に、段階を踏みながらひろゆき氏とはどういう人物か分析していきましょう(完全なる僕の主観です)。裏テーマを説明するために必要不可欠な要素です。
ひろゆき氏の魅力。
まずは彼の魅力。
言わずもがな、その頭の良さなのですが、どういったところに特徴があるのか一つ一つ挙げていきましょう。
①思考の整理
問題を整理することに関しては美しさすら感じます。あらゆる物事をパターン化し、分類していきます。考え方だけでなく、感情さえも論理立てて整理整頓します。
➁問題点の発見
問題の「核」の部分を一瞬で抽出します。
プログラマー的な思考の彼はノイズやバグに対して非常に繊細な感覚を持っています。
「問題が起きているが、何が原因か分からない」といったことや「指摘されている問題点がズレている」といったことが世の中では往々にしてあるわけですが。こんがらがった紐の「核」を瞬時に見極めるように、問題点を素早く検出する。その機能が抜群に優れています。
➂独自の発想
一般論は言いません。常に人とは違う意見(アイディア)を持っています。
その秘密は思考の速さとアイディアの多さにあります。プログラマー的思考であり、問題発見から解決に向かう速度と量。つまり、速くて案が多いということです。
発想のオモシロさの理由は、オリジナリティ。
ひろゆき氏の役割は「人と違うことを喋ること」。一般的な考えをシラミ潰しにした後、その一歩先や、未だ議論されていない答えを提案してくれます。
④説得力(論理力)
ひろゆき氏の提案は「人と違うこと」が前提なので、最初はその答えに驚くのですが、圧倒的な論理力で相手を納得させてしまう力があります。その力は時に相手を追い詰めることも。ひろゆき氏が誰かを論破している動画を見たことがある人も多いのではないでしょうか。
相手の言いたいことが分かっているにも関わらず、「フェーズの違う話に持ち込み論破する(周囲にはひろゆき無双という印象しか残らない)」といった半ば禁じ手のようなこともやります。彼の恐ろしいところは、それを「分かっていてやっている」ことがあるということです。
ひろゆき氏には欲望はないのか?
話題になった『モチベーション革命』という本がありましたよね。←黄色いやつ
あの中で、「渇けない世代」という言葉が出てきました。
やればやった分だけ対価がもらえた時代を生きた人を「渇いている世代」と表現し、日本が成熟期に入った時代の人を「渇けない世代」と表現しました。
「渇いている世代」の人はモノが無いところから次第にモノが現れ始めたのに対し、「渇けない世代」の人は生まれた時からモノで溢れていた。だからお互いのモチベーションの持ち方が違うというような話だったと思います(多分)。
言ってみれば「欲望(モチベーション)の持って行き方が違う」ということですよね。
「高級マンションに住みたい、高級外車に乗りたい」という物欲よりも、「家や車はシェアで良い」といった人との繋がりの方に喜びを覚えたり、「自分の時間を大切にしたい」という考えですよね。この世代間のギャップが相互の理解を難しくしているのですが。
ひろゆき氏は「渇けない世代」の先駆者で(定義的には35歳以下の世代らしいですが)、「渇いている世代」の人たちから見ると理解できない部分が多いと思います。
物欲もない、良い服を着たり、高級車を乗り回したりするタイプではない。
お金を持っているのに「渇いている世代」の人たちの遣い方と違うんです。
ひろゆき氏は欲望がないわけではないんですね。ただ、「欲望の現れ方が違う」というだけで。
それは『働き方 完全無双』を読むと分かるのですが、とにかく優先順位がはっきりしています。仕事よりも何よりも自分の好きなことに時間を費やすことを徹底しています(ゲームや睡眠など)。
いつもニコニコしていて掴みどころのない彼ですが、感動したりすることはあるのでしょうか?想像がつきにくいと思います。
彼が何に「感動」し、何に「驚く」のか。
僕なりの答えを出してみました。
ひろゆき氏の快楽。
ひろゆき氏の快楽というのは主に3種類あって、「問題解決」「新しい仕組みの発見」「仮説→検証」です(完全主観)。
① 問題解決
イレギュラーな問題が起きた時に、それを解決すること。
先ほども述べましたがプログラマーとしての思考を持つ彼はノイズやバグに対して非常に繊細な感覚を持っています。ゲーム感覚で問題を整理し、解決へと導く。そしてパターン化させることが快楽です。そして既にパターン化してしまったものには興味を失ってしまうんですね。
➁新しい仕組みの発見。
それはコミュニティの大小に関わらず、きちんとした論理で定型化されている仕組みを知った時に彼はエレクトするんですね。今まで知り得なかった「よくできた仕組み」を知ることが快楽となります。
➂仮説→検証
遊戯的に彼は①「問題解決」をしています。空気を吸って吐くのと変わらない感覚で。そのためにひろゆき氏の魅力の項で記載した①~④を総動員します。「問題点の発見」「思考の整理」「独自の発想」「説得力」。問題を整理しながら、論理を組んでオリジナルな仮説を立てるわけです。そしてその仮説を検証する。仮説通りに物事が運べば快楽、運ばなければ組み立て直し、再び検証。
まるでゲームのようにこれを繰り返しています。
この快楽が『働き方 完全無双』の裏テーマと大きく関わっているんですね。
それではようやく、その正体に迫ってみましょう。
裏テーマ、それは「日本国の育成ゲーム」
ひろゆき氏のことについて色々と書いてきましたが、ようやく本題です。
本書は仮説→検証のきっかけとしての役割があります。
ひろゆき氏はこの本で「日本の新しい存続の方法」を提案しています。
それは個人の幸福という問題だけでなく、国自体を存続するための方法を。
具体的には他国と異なった文化で観光地にすることやベーシックインカム案などです。
彼の快楽は「問題解決」です。
それも「独自の発想」で解決するための仮説を立てます。
そして、立てられた仮説は検証されなければなりません。
この本は、実社会において仮説を検証するための「場」をつくる装置なんです。
彼は2ちゃんねるでテキストベースでのインタラクティブな「場」をつくりました。
そして次にニコニコ動画で動画ベースでのインタラクティブな「場」をつくりました。
そして今、リアルな社会での「場」をつくろうとしています。
本書の中にもありましたが、「コミュニティはたくさんの利益を得られる」と。コンテンツよりもプラットフォームやコミュニティの方が力が強いんです。それを彼は、2ちゃんねるという「場」、ニコニコ動画という「場」で実証してきました。
ひろゆき氏の「煽り」としか思えない文章には実は意味があって。それは、議論を起こして仮説を前へ進めるためなんですね。彼の語っていることは正しいことばかりだと思うのですが、必要以上にスパイスの利いた文章だと思いませんか?それは反対意見を誘い出して議論となる「場」を作っているんです。
議論が生まれると、自然と波及していくことを彼は誰よりも知っています。賛成意見ばかりでは議論は生まれない。だからあえて、スパイシーな言葉を使っている。
「神」の視点から育成する日本。
彼は自分がゲームの主人公となってベーシックインカム案を実行するつもりは毛頭ないんです。彼はRPGをしたいのではなく、育成ゲームがしたいんです(「国をつくろう」的な)。
RPGの主人公になりたい人は政治家になります。そしてその主人公を操る黒幕(プレイヤー)でもない。彼はRPGがしたいのではなく、育成ゲームがしたいのです。
特定の誰かに自分を重ね合わせるのではなく、日本という社会(現象)を育てたいんですね。つまり、神の視点です。フランスへ行ったのも、より客観的な目を持つため、という要素も少しはあるのではないでしょうか。
『世界』という名の育成ゲーム、チョイスした国は日本。
日本は育成するのにちょうどいい難易度だと思います。
アメリカでもロシアでもなく、発展が進む中国でもなく、途上にいる東南アジアでもない。
衰退の途を辿るしかない日本が結構高い難易度。それか完全孤高の北朝鮮。はたまたロシアからの脱却を図るウクライナ。
育成するにはこの三国がおもしろいのではないでしょうか?
仮説は立てた。あとは検証するだけ。ノイズが出れば除去すればいいし、その都度微調整しながら育てていく。
本書は、そんなひろゆき氏のゲームをはじめるきっかけの装置となります。
この本で読者にマインドを植え付け、「場」を作っていく。
行動を起こせない人。
考えることが苦手な人。
有識者のリツイートばかりして頭が良い気になっている人。
閉塞感から抜け出したい人。
そんな大多数の彼らに向けたメッセージが込められている本書ですが、そんな人たちがこの本を読んだだけで「幸せになれるわけがない」ことをひろゆき氏は分かっているはずです。ひろゆき氏のように優秀でないために今の位置に留まっているわけだから。
そんな彼らの一瞬の安堵感のために。自ら行動には移さないけど、流れができたらそちらに向かうことができるように。無意識に働きかける本なのです。
表テーマは「ひろゆきの幸福論」、裏テーマは「日本育成ゲーム」。
この二点を押さえながら読むと、よりひろゆき氏のことを深く味わえる作品です。
ただ僕は、そんなひろゆき氏の「仮説の世界」が現実になるところを見てみたい気持ちでいっぱいです。