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自由律俳句 #250

【桜を思い浮かべてバスを待つ】


桜色のバスについて調べているのですか?

はい、それなら知っていますよ。
淡い桜色のバスのこと。

どこのバス停に来るのかって?
どこでも良いんですよ、桜の木がそばにあるバス停なら。
でもバスが迎えに来るのは、その桜が咲いている間だけです。

どこに向かうのかですって?
そうですね、何と言ったらいいか、
春の思い出に連れて行ってくれる、と言いますか。
桜が咲いている頃の思い出、とでも言いましょうか。
きっと、誰にでも春の思い出があるのでしょうね。

私も乗ったことがある方を、お二人だけ知っていますよ。

一人目の方は、たまたまいつもより一本遅いバスに乗ったそうです。
仕事が長引いてしまったらしく、少し疲れていたとも話していましたね。
バスは高校生の頃の春に停まったそうです。
新年度の初日、クラス替えの思い出で、
隣の席のクラスメイトの第一印象はあまり良くなかったみたいですが、
なんだか気になって、結局その方とお付き合いすることになったんだとか。
そして再来月には、その隣の席だった方と結婚式を挙げる予定だそうですよ。

二人目の方は、勤めていた会社を定年退職されたばかりで、
体が怠けないようにって散歩をしていたそうです。
でも途中で足をくじいてしまい、やむを得ずバスに乗って帰ろうと。
そう、そこで乗ったバスが桜色のバスだったそうです。
その方は、社会人になって間もない頃の春に停まったそうです。
初々しいご自身を見つめて、何か新しいことを始めたくなったそうですよ。

えっ?なんでそんなに詳しいのかって?

実は、私も毎年乗っているんです、その桜色のバス。
私はいつも、自分の子どもの思い出に停まるんです。
今は遠いところにいるからその子とは会えなくて。
このバスに乗ると、産まれたばかりのあの子に会えるんです。
小さくて、とっても可愛いんですよ。

バスに乗った後、無事に戻って来れるのかって?
そうですよね、心配ですよね。
でも、大丈夫です。現に私がここにいるでしょ。
変なところに連れて行かれたり、途中で降ろされたりはしませんよ。
思い出の場所を訪れた後は、バスの中で自然と眠たくなるんです。
そして気が付いたら、元に居たバス停に戻っています。

ほら、春ってなんだか眠たいことがあるでしょ?
あれはね、その桜色のバスが近くを通ったからですよ。
そうそう、いつの間にかそのバスが、
私たちのそばを通り過ぎているのかもしれませんね。

さて、もうそろそろバスが来ると思いますよ。

えっ?そのお子さんは元気かって?
はい、元気でやっていると思います。
ちょうどあなたと同い年ぐらいかな。
春の花が咲くこの時期に産まれたあの子。
ちょうど満開になったっていうお知らせもあったので、
名前は…

あっ!ほら来ましたよ、桜色のバス。
あれです、あのバスです。

私は今年も、きっとあの子に会えるでしょう。

あなたは、
あなたはどのような春の思い出に停まるのでしょうか。

もしまた会えたら、教えてください。

えっ?まだ乗らないことにするって?

そっか、そうですね。
素敵な春のあの頃を思い出したくなったら、
桜を待てば良いと思います。
毎年、春は来ますから。

あっ!そうだ、
あなたのお名前は?

いえ、やっぱり聞かないことにします。
私の気のせいだと思うから。

では、お先に。
またいつかお会いしましょう。
桜を思い浮かべるバス停で。


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