見出し画像

#28 Mr.Children「miss you」はド直球バンドサウンドである。

24/10/12: 600 views達成!皆様ありがとうございます!
好評につき一部リニューアルしました。

まず、このアルバムとの出会いは非常に幸福だった。たまたま見たTVスポットで桜井さんが一人ギターを持って歌うのを見て、今まで完全ノーチェックだったミスチル新作のことがふと頭に入ってきた。なんと収録曲全てが完全新曲らしい。

そこから頭はミスチルでいっぱいになり、発売したらすぐさまタワレコで、久々にフィジカルCDを購入した。

このアルバムはMr.Childrenにとって「異質な」アルバムであると言われている。別途マガジンにもしているが、「miss you」の感想を語るnote記事はかなりたくさんあり、どれも楽しく読ませて頂いた。ミスチルが何を表現したいのか、どこに向かっているのか、想像を掻き立てられる作品なのは間違いない。


近年の潮流

いっぽう近年、「miss you」のような内省的なアルバムは世界的なトレンドである。UKオルタナティブバンドの代表格Arctic Monkeysは、初期作の疾走感溢れる雰囲気とは対照的な、徹底して静謐な作品を2022年にリリースしている。


同じ潮流は、ヒップホップにも見られる。Kendric Lamerの2022年の新作は、冒頭の楽曲からカウンセリングに通っていることを告白し始まる。日本ではSALUの近作も印象的だ。


「miss you」はコンセプトアルバム

やや冷静な目で見るとこの「miss you」は我々リスナーに対する揺さぶりとして、世界のトレンドを利用し作られた戦略的な一作だろうと思う。

そして着目すべきは、このアルバムに一聴して感じられる一貫性である。アルバムを聴いた直後の感想として、threadsに以下のようなことを書いた。

「重力や呼吸」や「SENSE」は冒頭こそ「新しいミスチル」であったものの、それが「いつものミスチル」に戻っていくような流れが残念だったが、「miss you」は確かに新しいミスチルで始まり、終わっている。

フカイのthreads


後半からは「NAKED」なMr.Children

聴いていくにつれ、実はこのアルバムは、前半と後半では大きく異なる趣を持っているような気がしてきた。

前半は、サウンド的にチャレンジングなものが並んでいる。
サンプリングとループで作られた「アート=神の見えざる手」。
Radioheadの「reckoner」
に影響を受けたであろう「Are you sleeping well without me?」
独特の転調とコード進行がクセになる「Fifty's map〜おとなの地図〜」
どれも今までのミスチルには聞き覚えのない作風であり、それがこのアルバムの雰囲気を決定づけている。


一方で後半は、少し聞き覚えのあるようなミスチルらしさが見え隠れし始める。この「ミニマルなアルバム」で、過去作のアレンジ、言ってしまえば小林武史の呪縛を解こうとしているように思える。それはまるで、ポールマッカートニーがフィル・スペクターの呪縛を解くビートルズの「LET IT BE…NAKED」のようである。


たとえば「party is over」は、アルバム「reflection」収録の「starting over」の弾き語り版といった趣。「We have no time」は、アルバム「Q」収録の「十二月のセントラルパークブルース」をさらにソリッドにした感じ。「ケモノミチ」はアコースティックな3連ロック、「NOT FOUND」の進化版のように聴こえる。


「黄昏と積み木」の凄さ

そして、特に着目すべきは11曲目「黄昏と積み木」である。

イントロなしで始まる印象的なこの曲は、アルバム「SUPERMARKET FANTASY」収録の「水上バス」を、よりシンプルにしたような楽曲。

Fで始まるこういったミディアムテンポの曲は、サビに行くとF→Cの音域をゆっくりと、張らなきゃといけないことになる。なので、男声ボーカルにとって「Fのバラード」は作りづらいはずである。

前述の「水上バス」や「HOME」収録の「Another story」では、サビで王道進行を使うことで高音を避けて作られている。

「黄昏と積み木」は、今作から大幅に取り入れられた「オクターブ」唱法を非常に効果的に使っているのだ。高音を裏声で出すことによって、王道進行を回避。ストレートに高音でサビを歌うことが出来ている。


「黄昏と積み木」の後は、アルバム「HOME」のリテイクのような「de-javu」、アルバム「SENSE」的なアレンジの「おはよう」で、あくまでミニマルに締められる。


そもそもミスチルはどんなバンドか

コンセプチュアルに作られたこのアルバムは、全く異質では無い。「狙いが上手くいっている」ミスチルのアルバムとして高く評価したい。

ミスチルはそもそも、音楽の潮流に対するカウンターで曲を作ってきた、「オルタナティブな」バンドである。ヒット曲はそのバンドを延命するための彼らの戦略であると思っている。

「深海」や「BOLERO」がわかりやすく「ヒット曲を求める世間へのカウンター」であったように、逆に甘過ぎるほどにポップに仕上げたアルバム「SUPERMARKET FANTASY」があったように、この「miss you」はバンドのあるべき、これまでと同様の姿である。

彼らのこの先のキャリアに対しても全く心配することない、前向きな一作と捉えられる。

いいなと思ったら応援しよう!