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連載小説「1万7000回『こんにちは』を言い続けてきた」 連載3日目

これは在宅医療に挑んだ1人の青年の『こんにちは』の軌跡。
踠き、苦しみ、それでも目の前の人々と全力で向き合った、ノンフィクション小説です。

*山口本人を除き全て仮名としています。

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3回目

 この施設には週1回訪問する。
 訪問では往診医、看護師、薬剤師でチームを作り、施設で生活されている方々を周る回診を行う。回診の後、薬剤師はさらに単独で周って、薬の効果や副作用がないかをチェックする。

 「では今日の診察を始めようか。」

 往診医の斎藤先生はベテランの医師。60歳を超えるが、もっと若く見える。背丈もあり体格もいい。元外科医ということもあってか、とにかく判断が速い。判断は速いが、スタッフの意見も積極的に聞いていく。

 「食事は摂れてる?水分はどうかな?薬は?何を飲んでいる?」

 この質問に先輩たちはがんがん答えていく。

 「じゃぁこうしよう」
 「次はこれで!」
 「はい次は?」

 (ちょっと待って!まったく付いていけない…。)

 「じゃぁ薬はそれで」

 (え?何が決まったの?どうなったの?)

 斎藤先生の判断、指示も速いが、それに答える看護師や近藤先輩も速い。
 質問に間髪入れず答えていき、意見を出していく。指示も漏れなく確認している。

 (なにもわからなかった…)

 なんかもっと分かると思っていたけど、まったく付いていけなかった。

 「じゃあ今日の指示の読み合わせをします。」

 近藤先輩が回診の指示をまとめる。
 その内容をほとんど把握できてなかった。

 「じゃぁお昼ご飯にしようか。その前に、山口くん何か質問ある?」
 「ほとんど何もわからなかったです。」
 「だろうね(笑)斎藤先生は判断が速いし、付いていくの大変だとおもう。ところで、誰か印象に残った人はいた?」
 「え…」

 ハッとした。ほとんど誰のことも覚えていない。斎藤先生や近藤先輩のやり取りを聞くのに必死で、診察を受けている方々のことを見れていなかった。

 「また何かわからないことあったら質問してね!」
 「はい、そうします…」

 何もできなかった。何もわからなかった。何もみれていなかった。オレは無力だ。

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