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僕が古着を好きになった理由
古着を好きになったのは、高校2年生のときにアルバイトの先輩が心斎橋の『HANJIRO」に連れて行ってもらったのがきっかけだ。今はもう店名が変わってしまっているが、とても思い入れのある古着屋さんである。
昔から人と同じが嫌いだった。誰とも被らない服装がしたい。そう考えるようになったのは高校2年生の冬だった。皆と違う服装をしている先輩を不思議に思い、どこで服を買っているんですか?と聞いたところ、連れて行ってもらえることになった。
当時はお金がなかったので、どこに行くにも自転車だった。手袋があっても手が悴む寒空の中、遠いっすとか、寒すぎませんとか文句を言いながら自転車を漕ぐ。そんなわがままな僕に対して、先輩は「お前が行きたいって言ったんやから文句言うな」と笑っていた。
50分近く自転車を漕いでいると、御堂筋のイルミネーションが見えてきた。色とりどりのネオンに目を奪われ、先輩が来ているような服とようやく出会えると胸を踊らせる。心斎橋まで親ではない誰かと来るなんて自分も高校生になったのだなと自身の成長に感心した。
行き先はOPAの8階にある『HANJIRO」だ。先輩は手慣れた感覚で店の前にあるエレベーターに乗っていく。何がなんだかわからないまま僕も乗り込んだ。正直古着がなんなのかもわかっていなかった。そこにあったのは人と被らないという認識だけだ。
エレベーターの扉が開いた瞬間に、見たこともない景色が目の前に広がった。天井に釣られたさまざまな洋服たち。白、黒、黄色、青などカラフルな服たちが店内をこれでもかと彩っている。ああ、ここは楽園なのかもしれないと思った。店内にいる人もみたことがない服装をしている人がほとんどだ。中には複数の色を合わせている人もいて、どうしてその色合わせが思いつくんだと驚きを隠せなかった。
店に着いた途端に先輩は「じゃあここからは別行動な」とどこかへ消えていった。たくさんの古着を前にしたところで、何が自分に合うかのはわからない。不審者のようにキョロキョロしていると、店員さんが「どんな服をお探しですか?」と声をかけてくれた。だが、どんな服を買うのかをが決めていない。ひとしきり悩んだ結果、「アウターを探しています」と伝えた。
店員さんはアウターコーナーに案内してくれた。当時流行っていた黒のPコートを僕の前に差し出す。ちなみに何が流行っていたかは当時は知らなかった。店員さんに言われるがままに黒のPコートに袖を通す。その瞬間に世界が変わったような気がした。ああ、今僕は自分の知らない世界に入り込んでいる。古着を着れば人と被らずに済む。この喜びと出会ってしまったらもうセレクトショップで服を買えないかもしれない。
そして、鏡を見る前にこれをくださいと店員さんに伝えていた。もっとこの世界にのめり込みたいと熱が上がっていく。アウターコーナーの隣にあった1,000円ラックを見つけ、「このPコートに合う服を教えてください」と店員さんに伝える。すると、パンツやシャツなど様々な提案をしてくれた。正確な数は覚えていないけれど、5着ほど買った記憶がある。
一方、先輩はミリタリーのジャケットを手に取っていた。年代によって形が違うと言っていたが、当時はよくわからずただ頷くことしかできなかった。その他にも10着以上手に持っていて、「服の量がすごい」と呟くと、「古着は一点物で今を逃すと2度と出会えない可能性もある。でも、試着しやんかったら買ったこと後悔するやんか。だから、いいと思ったものはまず試着するねん」と教えてくれた。
レジに向かい、初めての古着を購入する。あまりにもうれしくてPコートを着て帰った。後で知った話だが、古着屋巡りが好きな人は買った服をそのまま着て帰る人が多いらしい。買った服をすぐに着たくなる気持ちは手に取るようにわかる。そこには嬉しさが入っていて、服への愛と敬意も込められているのだ。僕と同じように先輩も買った古着をすぐに着ていた。帰り道はなぜか時間が短く感じる。それは楽しさがそこに込められているからだろう。
それ以降、どこかへ出かけるたびに近くに古着屋はないのかなとGoogleマップで探すようになった。アメ村や堀江、中崎町、京都や奈良などたくさんの古着屋へ足を運んだ。今は原宿の『Sebastian」がお気に入りだ。大学生の時に読んでいた『ChokiChoki』の茶系特集でお店の存在を知って以降、ずっと動向を追い続けている。これまでも通販などで購入できるチャンスはあったのだが、絶対に店員さんに接客してもらいたいと心に決め、通販で購入しなかった。そして、今年になってようやく足を運ぶことができた。
古着は人と違うを楽しむことができる。そして、1着1着にきちんとストーリーがあって、それを知るのが本当に楽しくて仕方がない。20代後半は少し古着熱が冷めていたのだが、31歳になってからまた古着熱が再燃し始めた。31歳になって古着?と思う方がいるかもしれない。だが、ファッションはいつだって自由だ。それは生き方にも通ずるものである。古着は楽しい。これからもたくさんの古着に魅了されていたい。
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