無意味になった打ち上げ花火と不良少年との思い出
「ここの社員の営業成績を1年で全員抜いてやりますよ」
これはとある企業の面接の話だ。学歴がないという理由だけで話を聞いてもらえなかったことに苛立ち、大きな啖呵を切って、部屋を後にした友人がいる。
「あいつら口ばっかで全然ダメ。俺の方が絶対に仕事できるわ」
「それは絶対不採用やな。何をしでかすかわからん社員は俺やったら取りたくない」と笑いながら伝えると、彼は「仕事もできひんし、見る目もないあいつらは俺を落としたことを一生後悔するで」と笑っていた。いかにもお調子者の彼らしい回答で、その日僕らは友人の不採用記念に河川敷で花火を何発も空に打ち上げた。
後日、人事から電話があったらしい。結果は最終面接を飛ばして、見事に採用。打ち上げ花火までしたのに、あの時間は一体なんだったんだ…。人事の方から「お前面白いやんけ」と言われたときに「あいつらは全然ダメやったけど、〇〇さんはなかなか見る目あるっすね」と返したと聞いて、あいつらしいなと思った。「採用もらったんやったらお祝いせんとな」とメールで伝えると「じゃあ焼肉奢りな、あざす」とメールが来ていたけれど、僕たちはなぜかそれ以降一度も会わなかった。
彼とは小学生からの付き合いだ。なぜかわからないけれど、僕は昔から不良と呼ばれる類の人間に好かれる傾向がある。基本的に群れるのが苦手で、どこにも属さない一匹狼だったからだろうか。小学生、中学生のときも不良グループのやつとは仲が良かったし、優等生ばかりが集まる高校に進学しても、不良グループの友人に気に入られていた。
そのなかでも1番の不良はやっぱり大手企業の面接で、人事相手に啖呵を切った彼である。中学の時に体育の授業がなくなるだけで、授業をボイコットする無茶苦茶なやつだ。自分の思い通りにならなければ、すぐに暴れ出す気性の荒いやつだったけれど、そういうやつはなぜか仲間には優しい傾向がある。別の友人が他校のやつにやられたと聞いたときには、いの一番に1人で他校に乗り込んでいた。僕だったら決して1人では乗り込めないし、そもそも喧嘩などしたくない。でも、彼は数人で行ったら卑怯やろと1人で乗り込むほど勇気のあるやつだった。
これは少年ジャンプみたいな話だが、仲間が傷つけられた時に、発揮する力は凄まじいものがある。友人はたった1人で乗り込み、どこも怪我をすることなく目的を果たしたのであった。彼が他校に乗り込んだ話はすぐに学校で問題になったが「俺の友達を殴った奴にやり返しただけ。仲間に手を出すやつは絶対に許さん」と、微塵も後悔していない様子だった。
そんな乱暴者が大手企業から内定をもらったと聞いたときは、地元で大きな話題となった。まさかあいつが信じられないとか、あいつなら何しでかすかわからんからあるやろうなとか、仲間内でも意見が割れていたのをいまでもたまに思い出す。
彼が大手企業に内定をもらったと聞いたときに、なぜか涙が出た。企業に入ったあとも、間違ったことを言われると、社内の人とよく口論していたらしい。正義感が人一倍強いあいつらしくて笑える。
成人式で数年ぶりに彼に会った時は、好きな女が俺を捨てて結婚したと嘆いていた。お前みたいな馬鹿にはついていけへんかったやろうなと笑いながら伝えると「お前、マジでしばく」と笑いながら僕の横腹を殴っていた。
会社での営業成績は社内で表彰されるほどで「ほら、やっぱり俺の言った通りになったやろ。あいつら俺を採用して良かったな」とすっかりお調子者になっていたけれど、何かを言いかけたところで、彼はどこかへ姿を消してしまったのだ。
数年前に偶然地元で、彼と遭遇した。「会社立ち上げるから会社やめたんよ」と彼がタバコを蒸しながら言う。そうか、企業に収まるようなやつじゃなかったもんな、お前。なんて口が裂けても言いたくない。
あの日から彼とは一度も会っていないし、彼が立ち上げた会社がうまくいっているかどうかも知らない。彼のことだから会社がうまくいかなかったとしても、どうせ身を挺してでも社員を守っているのだろう。それがあいつのいいところであり、悪いところであることを僕は知っている。
今年は久しぶりに花火大会が開催された。どこも人混みで、逃げ場がない。たくさんの人がなだれ込むように、歩いている。大きな音が鳴った瞬間に、全員が立ち止まって、空に目を配った。大きな花火が打ち上がった瞬間に、彼の悪巧みをしたときの笑顔がふと頭に浮かんだ。