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だからもう涙を拭いて
桜が咲いたんだ。君にも見せてあげたいなんて思いながら桜を眺めていた。でも、君が住む街にも桜が咲いているため、わざわざ写真を撮って送る必要もない。それに君にはもう新しい恋人ができたみたいだね。僕は君を幸せにしてあげられなかったけれど、今新しい人の隣で笑っているのであれば、もうそれで十分だよ。
今日は靴箱の奥底に潜んでいた真っ白のスニーカーを引っ張り出した。先日古着屋で購入したストライプのシャツ。新しいものと新しい気持ちを身に纏って、桜並木を練り歩く。白い靴も喜んでいるのか普段よりも軽快なステップだ。
桜はたくさんの人から綺麗という言葉を奪っていく。どこもかしこも桜に魅了されては。同じ言葉のオンパレードだ。飽きられる前に散って、見たいなと思ったときにまた現れる。何もかもが絶妙な匙加減だ。彼女に飽きられる前に自分から姿を消したいとは思ったのだけれど、それは無理だった。僕の綺麗なあの人は一体何に奪われたのだろうか。その答えすら君は最後まで教えてくれなかった。
最近、好きな人ができた。四六時中そのことばかりを考えている。桜並木を彼女と一緒に手を繋ぎたい。夏になったら花火大会に行って、秋になったら紅葉を見にいく。冬は温泉旅行みたいなベタなシチューエーションでも、彼女がいればそれは特別な光を放つにちがいない。どこへ行くかよりも誰と行くか。何を食べるかよりも誰と食べるか。そこに当てはめたいのが彼女で、まだそれが妄想の域を超えないのが現実で。
恋は一人で落ちられるけれど、愛に発展させるには、もう一人必要らしい。春になると桜を見上げる人が増える。桜以外にも道端には綺麗な花がたくさん咲いているのに、あまりにも魅力的な桜にたくさんの人が目を奪われるのが、まるで人生みたいでおかしいね。綺麗なものを追いかけすぎると、手元にあったはずの大切なものがどんどんこぼれ落ちていく。ある日、知り合いの女性から最近、道端に咲く花を見ましたか?もし見ていなかったらそれは自分に余裕がない証拠ですと言われて、ハッとした。
つい最近の僕は君との思い出に囚われすぎて、外の世界を見ようともしなかった。君しかいないなんてただの大嘘で、君以外はだめが正解だったのだろう。なんてもう過去の話で、あの頃のウジウジくんはもうどこにもいない。だからもう泣かないで。僕は一人で平気だから。今度はとびきりいい人を見つけて、飽きられないようにしっかり頑張るよ。
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