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スローバラード

2人の出会いは、SNSだった。SNSのハンドルネーム。男と女。好きな歌手が同じ。そして、お互いに好意がある。それ以上の情報は、2人にはなにもない。

SNSの巡り合わせから2ヶ月ほど連絡を重ね、「1度お会いしませんか?」という連絡が彼から来た。恋人もいなかったし、会うだけならと思って、迷うことなく、「良いですよ」と答え、金曜日の夜に居酒屋に行くことになった。

ところが大きなプロジェクト前なので、仕事が終わらない。でも、私は残業を断って、君に会いに行く。思った通りのイケメンで、恋人にするのは悪くないという第一印象だった。

彼はお酒に弱い。レモンサワー1杯で顔が赤くなる。そんなところも愛しく思えて、初めて会った日に、私は彼に恋に落ちていた。恋はいつの間にか落ちるものという言葉を今まさに体現している自分がいる。私の中の好きの価値は暴落したのかもしれない。でも、そんなことは関係ない。好きなものは好きなのだ。

そして、いつもは3杯まで飲む私が、今日はなぜかお酒が弱い。カシスオレンジとレモンサワーのたった2杯でもう限界だった。彼に酔ってしまったのかどうかはわからない。そして、勢いで夜の街に消え、会った初日に2人は一夜を共にする。

彼はとても優しく、懸命に私を愛してくれる。そう本気で思った夜だった。

私には悪い癖がある。それは相手を所有したくなってしまうことだ。1度寝ただけで恋人づらをしたくなってしまう。直したいと思うものの直らないのは厄介なところ。この悪い癖のせいでなんども煮え湯を飲んだこともある。

2回目のデートも居酒屋だった。そして、2度目ましてで、以前のできごとが何事もなかったかのような素ぶりの君。私はお酒は3杯までがきまり。話が弾む。そして、なぜか君から4℃の指輪をもらって5歳児のように笑う私。

「安い女だね」と君は笑う。安いだなんて値付けされたところで、元から高価な女でもなんでもない。その辺にいるただのOL。失うものなんてなにもない。

そして、君の首にキスマークがついていることに気づく。

「あれ?首のキスマークは誰から付けてもらったの?恋人?もし恋人がいたのならば、私は弄ばれていたってことじゃない。なんか滑稽すぎて笑えるね。」と心の中でつぶやく。キスマークの真相を聞く勇気はなく、何にも気づかないふりをしてその場をやり過ごす。

一夜を共にしたあの夜とは違い、食事を済まし、適当にカフェでお茶をして、夜の8時に解散した。失恋だった。いとも簡単に思いは敗り去り、私の中のあぶくは消える。

1人、駅前まで立ち尽くす。人が行き交う駅前で涙すらも出ないろくでもない夜。この気持ちをおみくじに昇華してもらいたくて駅近の神社で、おみくじを引く。引いた数字は7番と随分ラッキーな数字だった。

書かれた内容は、「男に難あり」と選んだ男がはずれくじだったことに気づく。その辺にある木に思い出とおみくじを結んで、何もなかったことにする。

最初からはじまってないものは終わりもないため、失ったものなんて何もない。でも、さっきまで一緒だった男に四苦八苦していたことを思い出す。

「あー、私何してんだろ。ばっかみたい。」


バキバキになったiPhoneで、9時間前にオンラインになった別の男に、インスタのDMを惰性で入れる。適当に10回だけやりとりを済まして、最後にハートマークをつけた。

惰性で始まるものは、ちゃんと惰性で終わる。

ところで、あの男の本名はなんでしたっけ?

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