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あいみょん『生きていたんだよな』とMr.Children『LOVEはじめました』の共通点と相違点について

2016年にあいみょんは1stシングルの『生きていたんだよな』をリリースした。この楽曲は、ニュースで観た女子高生の飛び降り自殺事件を彼女の視点で捉えたものだ。同年11月1日に公開された楽曲のMVは、Twitter内に投稿された『死ね』というツイートを4分ごとに読み取り、MVへリアルタイムで反映させていた。

当時の自身は社会人2年目で少し毛が生えた状態だった。社会に出たことで、学生時代に培ってきた自信のメッキが剥がれ落ちて途方に暮れていた。失ったものを取り戻すために寝食を忘れ、ただただ仕事に没頭してする日々。心身はボロボロになり、いつしかTwitterで自分と同じ境遇の人を探し彷徨っていた。そんな時に出会ったのが、あいみょんの『生きていたんだよな』のMVだった。

あいみょんを知ったのは、社会人1年目の頃に聴いていたラジオで『貴方解剖純愛歌~死ね~』が流れてきたのがきっかけだ。いわゆるメンヘラソングなのだが、恋人に対して『死ね』と言っていた女性が『生きていたんだよな』で命について歌っている姿を見て、彼女の末恐ろしい才能に嫉妬した。

4時間ごとに更新されるMVの中に記される『死ね』という言葉。自分の身に降り注いだ不幸から逃れるために、人々はどこにもぶつけられない感情をTwitterにぶつけていた。そうだよな。いますぐ不幸から逃れたいし、どうせならもう不幸とは関係ない場所に行きたいと思ってしまうのは無理もない。当時は死にたいと思っていたわけではないが、どうすれば苦悩から逃れられるのだろうとばかり考えていた。

『生きていたんだよな』を初めて耳にしたとき、Mr.Childrenの『LOVEはじめました』を思い出した。

殺人現場にやじうま達が暇潰しで群がる
中高生達が携帯片手にカメラに向かってピースサインを送る
犯人はともかく まずはお前らが死刑になりゃいいんだ
でも このあとニュースで中田のインタビューがあるから
それ見てから考えるとしようか

『LOVEはじめました』

『LOVEはじめました』は2002年にリリースされた『It's a wonderful world』の収録曲だ。主人公は事件現場に群がるやじうま達に怒りを覚えたが、その後中田のインタビューを見てから考えるとしようと、すぐに他人行儀になっている。芽生えた怒りは一過性のもので、ふとしたきっかけで簡単に消え去っていく。タイトルの『LOVEはじめました』は『冷やし中華、はじめました』のオマージュだ。主人公にとって愛は冷やし中華程度の存在にしか映っていない。そして、このニュースも同様なのだ。気が向いたら考える程度のものでしかなく、深刻性もなければ緊急性もない。

「危ないですから離れてください」
そのセリフが集合の合図なのにな
馬鹿騒ぎした奴らがアホみたいに撮りまくった
冷たいアスファルトに流れるあの血の
何とも言えない赤さが綺麗で綺麗で

『生きていたんだよな』

あいみょんも同様で、自殺現場に群がる人たちに負の感情を抱きながらも、次の瞬間に関心が冷たいアスファルトに流れる赤い血に移っている。

泣いてしまったんだ 泣いてしまったんだ
何にも知らないブラウン管の外側で

『生きていたんだよな』

だが、『『LOVEはじめました』と異なるのは、その後彼女は涙を流しているという点だ。自殺で亡くなった女子高生はめいいっぱい生きたが、人間の死はすぐさま忘れ去られるのがオチである。その証拠に自殺した女子高生が流した生きた証の赤い血は大人たちによって2秒で拭き取られていく。あいみょんは、決して自殺を肯定しているわけではない。女子高生は確かに生きていた。そして、生きるために必死だった。その事実を証明するために『生きていたんだよな』が生まれたのだと感じた。

『LOVEはじめました』は、愛と死を軽く描いているが、そこには桜井自身が大ヒットしたバンドとして背負う宿命である大衆に迎合した音楽づくりに辟易している姿が垣間見えた。売れるために音楽をやっているわけではなく、やりたいからやっていると言いたいけれど、社会がそれを許さない。自分の中の本音と社会に求められているものと折り合いをつけるために、少しずつ言葉が軽くなっていく。彼と同じ境遇になったわけではないため、本心はわからないが、もしも誰かにやりたいことを奪われてしまったら、自暴自棄になるのは目に見えている。

『生きていたんだよな』に登場する女子高生も必死にもがき続けていたに違いない。彼女が選んだ最終的な道が自殺だった。ただそれだけのことである。自殺は賞賛されるものではないのかもしれないが、この世に生み落とされて、死ぬまではちゃんと生きたという事実だけは消えないでほしいと切に願う。

社会では必ずしも努力が報われるとは限らないし、これまでたくさん夢破れた人を見てきた。何も成し得ない人生だったとしても、誰かが自分を覚えてくれていたのならば、それだけで生まれてきた甲斐があるのかもしれない。

生きて生きて生きて生きて生きて
生きて生きて 生きていたんだよな
最後のサヨナラは他の誰でもなく
自分に叫んだんだろう

サヨナラ サヨナラ

『生きていたんだよな』

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サトウリョウタ@毎日更新の人
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