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【ちいさなものがたり】 さんにんは いつもいっしょ

(3000字 5分でよめます)

どうぶつとにんげんが仲良くくらす丘。

その中腹にある一軒のおうちに、あずみちゃんという女の子と、リスちゃんと、シカくんの三人がくらしていました。


三人はとても仲良し。

三人で出かけたり、お茶したり、ご飯を食べたり。

いつもおなじ時間をすごしていました。


ある朝、女の子は早おきしました。

そしてそーっとベッドからぬけだし、しずかにきがえて、キッチンに向かいました。

リスちゃんとシカくんはまだベッドのなかで寝ています。

女の子はクルミとプルーンがたくさんはいったスコーンを焼きました。

リスちゃんとシカくんと一緒に食べようと思いついたのです。


スコーンが焼きあがるころ、部屋中にあまいかおりがただよいました。


「そうだ、庭に咲くユリをテーブルにかざりましょう。そうしたら二人とも、きっと喜ぶから」


女の子はそういって籐でできたかごをもち、小川のちかくの庭にさくユリのところにむかいました。

あまいかおりに誘われてリスちゃんとシカくんは、同時に目をさましました。
「これはなんのにおいだろう、リスちゃん」
「さあ、シカくん、あずみちゃんにきいてみましょうよ」


目をこすりながらふたりはキッチンにむかいます。

でも、テーブルには焼きたてのクルミとプルーンのスコーンがあるだけ。

女の子はいません。


「あずみちゃん、おさんぽにでかけたのかな」


「それにしても、なんておいしそうなスコーンだろう」


そういったシカくんのおなかがグウとひとつなりました。

つられてリスちゃんのおなかもグウとひとつなりました。


「リスちゃん、おなかがへったねえ」

「シカくん、それにしてもおなかがへったわねえ」

ふたりのおなかはまたひとつグウとなりました。


でも、このスコーンは女の子が焼いたもの。

かってに食べるわけにはいきません。


そのときシカくんはふと気づきました。

「そうだ、ここにスコーンはたくさんある。だからすこしだけ食べてみよう。」


「だめよシカくん、あずみちゃんが悲しむわ」

するとシカくんは得意げに答えました。

「リスちゃん、ひとつ名案があるんだ。きみとぼくとでスコーンを食べるだろ。でもみっつだけはのこしておこう。そうすれば、あずみちゃんがもどってから、みんなひとつずつ、いっしょに食べられる」

リスちゃんは、グウとおなかを鳴らしながらいいました。

「シカくん、きみはなんて頭がいいの!それならみんなでスコーンを楽しめるわ」

「では、いただきます」

「いただきます」

ふたりはそれぞれスコーンをひとつ、またひとつ、ほおばりました。

むしゃ むしゃ むしゃ。

むしゃ むしゃ むしゃ。

「なんておいしいんだろう」

「なんておいしいのかしら」

ふたりは口のまわりにスコーンのこなをつけながら、むしゃむしゃ食べてしまいました。


「リスちゃん、おいしかったね」

「シカくん、おいしかったわね」

「プルーンもあまくておいしかったなあ。あぁ、ぼくもっと食べたいや」

「もうすこしスコーンがあればねえ」

するとシカくんは得意げに答えました。

「ところでリスちゃん、またまたぼくに名案があるんだ。のこったみっつのスコーンをきみとぼくとでひとつずつ食べるだろ。のこったひとつをみっつにわけよう。そうすれば、あずみちゃんがもどってから三人でいっしょに食べられる」

リスちゃんは、くちびるをぺろっとなめていいました。

「シカくん、きみはなんて頭がいいのかしら!それならみんなでスコーンを楽しめるわ」


「では、いただきます」

「いただきます」

ふたりはそれぞれスコーンをひとつずつ、口にほおばりました。

むしゃ むしゃ。

むしゃ むしゃ。

ふたつのスコーンはあっと言う間になくなりました。

「ひとつだったけど、リスちゃん、おいしかったね」

「ひとつだったけど、シカくん、おいしかったわね」

「あぁ、ぼくもっと食べたいや」

「クルミもこおばしかったわ。もうすこしスコーンがあればねえ」


するとシカくんは得意げに答えました。

「リスちゃん、またまた、また!ぼくに名案があるんだ。のこったスコーンはひとつだあろう。これを五つのかけらにわけよう。そのうちスコーンのかけらを、きみとぼくとでひとつずつ食べるのさ。のこったスコーンのかけらは三つ。そうすれば、あずみちゃんがもどってから、みんなひとかけらずつ、いっしょに食べられる」

リスちゃんは、ゴクリとのどをならしていいました。

「シカくん、きみはほんとに頭がいいのね!それならみんなでスコーンを楽しめるわ」

「では、いただきます」

「いただきます」

ふたりはそれぞれスコーンをひとかけらずつ、くちにいれました。

ぽり。

ぽり。

「ひとかけらだったけど、なんておいしいんだろう」

「ひとかけらだったけど、なんておいしいのかしら」

ふたりはごくんとのみこんで食べてしまいました。

「リスちゃん、おいしかったね」

「シカくん、おいしかったわね。あずみちゃんと一緒に食べたらもっとすばらしいでしょうね」

リスちゃんのひとことに、ふたりはおたがいの顔をみあわせました。

お皿にはシカくんの黒くて丸い鼻よりもちいさく、ちいさくなったスコーンがみっつ。

あまりにもちいさすぎることに、ふたりは気づきました。


「どうしよう、リスちゃん」

「どうしよう、シカくん」

ふたりはおちつかなくなってしまいました。

シカくんはおもわず床をほるしぐさを、

リスちゃんはおもわず木でできたお皿をかじるしぐさをしました。

ふたりがおちつかない様子でいると、女の子がユリの花をかかえて帰ってきました。


「ただいま。小川のユリがみごとに咲いていたから、一輪いただいてきたわ」


シカくんとリスちゃんはかおを青ざめながら、ちいさな声でやっと、

「お か え り あ ず み ち ゃ ん」

と、いえました。


女の子はテーブルのお皿のうえの、ちいさな、ちいさなスコーンをみました。

そして一瞬くすっと笑いました。

でも、ちょっと思いなおして、ちょっと怒ったかおをしていいました。

「ふたりとも。スコーンを食べたのね。だまって食べてしまうのはよくないわ」

するとシカくんはいいました。

「だって、だって、おなかがすいていて。とてもいいにおいで。あずみちゃんと三人で食べられるように三つにわけてたんだけど。こんなにちいさくなったのは、なんでだろう?」


リスちゃんもいいました。

「あずみちゃん、あずみちゃん、ほんとうよ。わたしたち、あずみちゃんといっしょに食べようって。じゃあどうしたらいいんだろうって。シカくんがいい考えを思いついたのに。こんなにちいさくなったのは、なんでだろう?」

リスちゃんシカくんも、かなしくてかなしくて目から涙がこぼれました。

ふたりの話をきいていて、あずみちゃんはなんだか胸があったかくなりました。

女の子はふたりにいいました。


「ふふふ、ふたりとも、このスコーンはシカくんの好きなプルーンと、リスちゃんの好きなクルミがはいっていたの、気づいた?でもね、低温で焼いたからかな、サクッと焼きあがらなかったの。だから、いまからつくりなおすわ。紅茶もいれましょう。それにユリの花をテーブルにかざりましょう。」

女の子のそのことばをきいて、リスちゃんとシカくんのかおがパッとあかるくなりました。

三人はスコーンが焼けるまでのあいだ、ユリをテーブルにかざりました。

ゆっくり紅茶をいれて、ゆっくり飲みながら、とてもゆったりした時間を楽しみました。

そして、サクッと焼きあがった、クルミとプルーンのスコーンをおなかいっぱい食べました。

スコーンのあまいかおり、紅茶のかおり、そしてユリのかおりが三人をやさしく包みこみました。


いっしょにいるときも、いっしょにいないときも、三人はいつもいっしょでした。

おわり

フォト:azumin

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ryosukewexer
うちの子ノエルにちゅ〜るをあげます。