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プレイスタイルの選び方

人には人のスタイルがあります。スポーツ選手のフォームや得意技が異なるように、私たちは、はたらいたり生きたりするスタイルがあります。野球選手やサッカー選手のモノマネをする人がいますが、あれは多様で個性的なフォームを真似していますよね。通になればなるほど、些細なちがいを楽しみます。

イチローの振り子打法、王貞治の一本足打法、野茂英雄のトルネード投法…名前がついている人は僅かかもしれませんが、名前がついていなくても、少しずつみなさん異なりますし、加えて、経年で変化することもあります。


先週1on1した高校生のAさんとの会話で、人それぞれのスタイルを強く感じ、考える機会がありました。

Aさんは、自分を追い込むことを好むタイプです。いろんなやり方がある中で、大変そうなやり方を好みます。分野を絞って資源を集中投下するのではなく、網羅的にかつ深く掘ろうとします。もちろん広くやる分限界もありますし、時間がかかるので要領が悪いようにも見えますが、Aさん自身の気が済まないので、いろんなことの取り組み方がこうなります。

当初、僕はこのやり方を強く懸念していました。「忙しい」を「充実してる」と認識すると、とにかく予定を詰め込んで、やることを山盛りにして、すごくがんばったのにも関わらず、結果的に空虚感や、喪失感をもたらすことがあるからです。そういう人を、採用を担当していた頃にたくさん見てきました。
なので以前は、もっと「うまいやり方」ができないものかと考えながら接していました。


学生時代、僕は水泳をやっていて、専門種目はフリー(クロール)でした。当時の水泳界、特にフリーでは、オーストラリアのイアン・ソープで話題は持ちきりでした。金メダル5つ獲得した方です。2000年のシドニー五輪前後の話です。彼にはオランダのピーター・ファン・デン・ホーヘンバンドというライバルがいましたが、うちのコーチたちは、決まってソープのフォームこそ理想的だと語り、その理由を説いてくれました。

もちろんソープは記録だけでなく、美しく力強いフォームでした。スピードも持久力もものすごかったです。名実共に手本の1つであることはまちがいありませんでした。でもやっぱり、あくまで手本の1つなんだと思います。

例えば、ソープは2m近いの巨軀の持ち主でした。それでも力任せではなくても、そのパワーを存分に活用するフォームでした。あたりまえですが。しかし170cm強しかない、筋肉の付きにくい自分には、異なる戦い方をする選手の方が魅力的に映りましたし、具体的な参考になりました。
今思えば、そういう話をもっとコーチとできればよかったです。


Aさんに話を戻します。当初、Aさんの考え方に懸念を持ち、もっと「うまいやり方」を知ってほしいとも思っていましたが、一方で、何をやってもいつものやり方を選び、苦しみつつも根性と集中力で乗り切ろうとするパワーに圧倒されるときもありました。先週、またそういうやり方を、〆切もまあまあ近づいてる中で選ぼうとするので、そのやり方について問うてみたんですね。それでも彼女は、今までのやり方(strictと名づけられました)がいいと言うので、また尊重することにしました。

こういう状況で、こうした方が効率的などと、「うまいやり方」を諭すことはできるのかもしれません。しかし、イチローも王貞治も野茂も、偉業を成したのは、やんや言われながらも自分が信じた自分のスタイルを優先したからなんですよね。

特に、セオリーや身の回りの人と異なる場合、怖くもなります。そういうことは多々ありましたが、自分自身が、怖くても人の助けを借りて、人とちがってもやってきてよかったと思えている。今だって不安になることがあります。でも、だからこそ、1on1で話す学生たちにも、僕(≒セオリーや身の回りの人)が思ってることを諭すのはやめて、考える機会だけ持ってもらって、自分で選択してもらえればと思っています。

きっと野球における体重移動とか、水泳における水の抵抗とか、仕事や勉強、あるいは生きることも、そういう絶対に外せない視点はあるんだと思います。でも意外に少ないのかもしれません。

もしかしたら今回、あるいはいずれ、strictなAさんのやり方が、失敗することもあるでしょう。思ったような充実感を得られないかもしれない。でも、今、Aさんが自分で考えて、このやり方を選んだことに、Aさんしかたどり着けない未来も待ってる気がします。であれば、Aさんに限らず、問うて考える機会は持ってもらったとしても、僕が知っている範囲で諭すのではなく、本人も僕も想像を超える未来が見たい。それに、本人たちもその挑戦を楽しんでくれてると思います。


今日もありがとうございました。
"非効率な"Aさんの行く末が楽しみです。

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