混同しやすい言葉「自己肯定感」と「自己効力感」
僕は心理士として仕事をしているのですが、その中で
「うちの子は自己肯定感が低いみたいで、何に対してもやる気を出せないんです。どうしたらいいでしょうか」
こんな相談をよく受けます。
こういった相談に対して僕がどう思うかというと、
「あ、この方は自己肯定感と自己効力感を混同してしまっているな」
と思うんです。薄情なやつですよね。
けど、心理士業務にある程度の薄情さは必要だと思っているのでお許しください。
「自己肯定感」と「自己効力感」
なんだか似ているこの言葉を同じような意味合いで使ってしまうと、今何をすれば良いのかがよくわからなくなります。なぜならこの二つの言葉は似ているようで意味合いが全然違うからです。
言葉の説明をします。
自己肯定感とは、「ありのままの自分を肯定する感覚」のこと。「私は私が私であることを肯定する」
自己効力感とは、「自分は何かを成し遂げられる、という感覚」のこと。「私はやればできる」
全然違いますよね。言葉の意味を理解した上で先ほどの相談に戻りましょう。
「うちの子は自己肯定感が低いみたいで、何に対してもやる気を出せないんです。どうしたらいいでしょうか」
おそらく、この子は自己肯定感が低いのではなく、自己効力感が低いのだと思います。
「自分は何をやってもうまくいかない。どうせこれからやることもうまくいかないだろう。だからやらない」
こういった心理状態になっていると推察されます。この状態は「学習性無力感」を抱いている状態と言ったりもします。
では、このような状態の人の自己肯定感は本当に低いのでしょうか。実は、この状態の人の自己肯定感は決して低くはなく、むしろ高いと言えます。
なぜならこの人は「何をやってもうまくいかない自分」を受け容れて、「何もやらない」を選んでいるからです。この人は「できない自分」を肯定している。つまり自己肯定感は高い状態であると言えます。
「自己肯定感が高い人」というと、なんでもできるキラキラしている人を想像しがちですが、そんなことはありません。キラキラしていなくても、ありのままの自分を受け容れることは可能なので、そんな人は自己肯定感が高いのです。
では、なぜこの人は自己効力感が低くなってしまったのか。これがこの記事の本題です。
自己効力感が低くなる原因は、「度重なる失敗経験」です。ちょっと極端な例を出して説明してみます。
ここに、何かにトライすると10回中7回は失敗してしまうAさんとBさんがいます。
Aさんは10回のうち
1回目と、5回目と、8回目に成功を納めました。つまり
成功•失敗•失敗•失敗•成功•失敗•失敗•成功•失敗•失敗
という結果となりました。
ところがBさんは7回しかトライすることができませんでした。なぜなら7回連続で失敗してしまったからです。
7回目のトライを終えたとき、Bさんは「どうせ次も失敗だろう」と言って8回目以降のトライを放棄しました。
失敗•失敗•失敗•失敗•失敗•失敗•失敗•(成功)•(成功)•(成功)
※()は未実施
お分かりの通り、このBさんが「学習性無力感」を抱いてしまった人です。度重なる失敗経験によりやる気を失ってしまったんですね。
Bさんに必要だったのは他でもない「成功体験」です。もしかしたら3回連続で失敗してしまったところくらいで、なんでもいいから確実に成功するようなことにトライし、成功を味わっていたら、残り2回の成功も経験できたかもしれません。
一方のAさんは最初のトライで成功しちゃっているもんだから「やればできる」感覚が身につき、失敗が重なってもへっちゃら。だからやる気を失わずに最後までトライすることができたと言えます。
こういったことを受けて、本題の本題。
長い人生、環境の変化やご自身の考え方の変化により、今後も新たなことにチャレンジする人はきっと多いと思います。お子様がいる人はお子様がそういう環境に置かれたりするだろうし、会社勤めの方は新卒で入社してくる社員がその立場の人だったりします。また、この記事を読んでくれている方ご本人がそういった状況に今日からなるのかもしれません。
こういった、新しい環境に身を置いて、これから色々と新しいことにチャレンジすることになったときには「自己効力感」の上がり下がりに注目してほしいと思います。
お、あいつは早速成功体験を納めたぞ、よしよしいいぞその調子。
あれ、そういえばあの子は失敗体験が続いてしまっているな、ここいらで成功体験を味わっておいた方がいいかもな。
こんなような視点を持ってお子様や部下、自分自身と付き合っていくことができると、その人を「無気力」な状態にすることを避けることができるかと思います。
「自己肯定感」と「自己効力感」似ているようで違う感覚。このうち高めておいた方がいいのは「自己効力感」で、「自己肯定感」はむしろ低いくらいの方がいい場合もあります。理想に達していない自分に対して「まだまだダメだ。足りていない」と奮起できるのは自己肯定感が低いからこそだからです。
(「まだまだダメだ。足りていない」と奮起できている自分を肯定しているという意味では自己肯定感は高いと言えるんだけど、この辺掘り下げるとますます長くなるから割愛します!)
繰り返しますが、高めるべきは「自己効力感」です。今回はこの「自己効力感」を合言葉に新生活の第一歩を踏み出してほしいなと思いこの記事を書いてみました。この記事が皆様の背中を押すきっかけとなれば嬉しいです。