かつて米国でタブーだったケタミンが、在宅メンタルケアでブームに
Once-taboo ketamine booms for US at-home mental care
by Joshua Melvin
Medical Xpressに配信されたAFPのニュースをもとに、私(Ryosei)が外部の情報を書き足した内容になっています。
「かつてタブーとされていたパーティー・ドラッグのケタミンが、家庭でのうつ病治療に使われるようになってきている」という話。
長期的かつ大規模なスケールでの医学的影響が限られているため、オンライン販売でのケタミンブームは事故や規制強化(regulatory crackdown)に繋がるのでは、とAFPの記事では警鐘を鳴らしています。
パンデミックが発生したことにより、米国当局は、それまで対面での診察が必要だったケタミンなどの薬剤を、医師が遠隔で処方することを認めました。
ケタミン・ベビーシッター(Ketamine 'babysitter')
記事の中では単にケタミンを売るのではなく、総合的なサービスとしてケタミンを提供しているNue Life社の話が出てきます。
サービスの一貫としてNue Life社が推奨しているのが、このKetamine 'babysitter'です。ケタミン服用中に何か問題が起きた際にすぐに対処できたり、そばに人がいることで服用している人が安心できるために近くで見守ってくれる人のことです。
Ketamine babysitterが見つからない人はどうするんだろう?と思いNue Lifeのウェブサイトを確認したところ「ケタミン体験に同行できる人が見つからない場合は、追加料金でバーチャルシッターをご利用いただけます」というFAQの回答までありました。なんと手厚い。
以下、Nue Life社から送付されてくるケタミンパッケージと、瞑想の様子を描いた絵(瞑想というか横になってますが…)です。
かなりオシャレなパッケージですね。アイマスクなどが送られてくる他に、ケタミン体験をサポートするアプリもあります。体験の前にアプリを使って10分間の瞑想を行い、口の中でケタミンタブレットが溶けている間に自分の心を整えておくことがオススメのようです。
深い内省的な体験をするために、用意されたアイマスクで光を遮断し、ヘッドフォンで体験用に特別にデザインされたプレイリストを聞きます。体験は2時間を想定していますが、反応は人それぞれなので稀に3~6時間になることもあるようです。
ケタミン体験中の音声を録音し体験後に聞くことで体験を補足することも推奨されています。体験がもたらす無意識下での変化によって、自分を幸せにしてくれる物や人の存在に気づきつながりを取り戻す機会になる、とNue Lifeは説明しています。
人生が変わる
2019年に米国FDAは、治療抵抗性うつ病の成人に特化したタイプのケタミン(製品名Spravato)を承認しましたが、投与後少なくとも2時間は医療従事者の監視を受ける必要があります。鼻腔からスプレーで自己投与する際に医師の監視のもとで行う必要があり、鼻腔スプレーを家に持って帰ることもできません。
ほとんどのうつ病患者が改善する一方で、スタンフォード大学麻酔学助教授のBoris Heifets氏によると、約8%の人がが治療後に抑うつ症状が悪化したと報告しているそうです。
記事の最後に登場するニューヨーカーのフィリップ・マークルさんは、うつ病との長い戦いの中で、12歳の頃からうつ病の薬やLSDなどのサイケデリック、そしてトークセラピーなどを試して来ましたが、ケタミンには特別なものを感じるそうです。
「ケタミンは、他の治療法のような短期間での変化ではなく、明晰さと、助けとなる自己受容の感覚を与えてくれました。自分の人生を変えることができるサイケデリックがあるとしたら、それはこの薬だと思ったんです。」
というマークルさんの言葉で記事は締めくくられています。
ケタミンはアルコール乱用の抑制にも効果がある可能性
AFPの記事とは別の話になりますが、ケタミンの静脈注射によってアルコールの消費意欲を低下させ、アルコールの乱用を抑えるという研究もあります。「アルコールの楽しい思い出」の再定着をケタミンで阻害する(NMDA受容体を阻害)という、かなり面白い研究です。
【龍成メモ】
日本でサイケデリックドラックというと薬物乱用のイメージが強いですが、高いインパクトファクター(=影響力)を有するThe Lancetに掲載された研究では、有害な薬物で最下位(=最も害が少ない)から2つがマジックマッシュルームとLSDでした。
逆に有害な順に並べると1位アルコール・2位ヘロイン・3位クラックコカインとなっています。
サイケデリックドラック(幻覚作用が無いものも含め)については、ピーター・ティールも熱心に投資をしている分野です。支援先のAtai Life Sciences(Nasdaq: ATAI)はナスダックに上場しています。
一方、日本でも大塚製薬がケタミンに可能性を見出しており、2021年にパーセプション社から独占的開発販売権を取得しました。
パーセプション社に対して契約一時金2,000万ドルに加え、開発目標達成および売上高の達成目標に応じたマイルストーンを支払います。そして、日本国内における臨床試験は大塚製薬が自費負担。販売を大塚製薬が独占的に行える代わりに、売上高に応じたロイヤルティもパーセプション社に支払うという契約です。
表紙はangelicavaihelさんの写真です。
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