誰のための取り組みか
企業がルールを策定するとき、何か取り組みを始めるとき、重要視する要素は多くあると思いますが、代表的なものとして挙げられるものは費用対効果とプロモーション効果だと思います。払うお金もしくは投資に見合うかどうか、宣伝してポジティブな効果を得られるか、イメージ向上や営業活動して効果があるかということは非常に大事です。
人事関係案件についても、この法則は当てはまるように思います。人事領域の中で特にスポットライトが当たりがちなのは、タレントマネジメント関係、つまり幹部候補育成、専門職育成のためのトレーニング、昇進プログラムといったところでしょう。スタートアップや中小企業では体系化されたものはないかもしれませんが、いわゆる日系の大企業やグローバル企業はこういったスキームを持っていることが多いように思います。
もちろん効果や有効性は認めたうえで問題提起をしたいのですが、これらの取り組みは本当に会社のためになっているでしょうか。本当に本当にすべての社員にその投資なり配慮なりはいきわたっているでしょうか。
言わずもがな、会社としてハイパフォーマーに投資を行うことは有効な手段です。パレートの法則として知られていますが、全体の2割が会社全体の8割を稼ぎ出しているともいわれている通り、会社のコア人材の重要性は今更言及するまでもありません。しかしながら、注意すべきところは、この2割のコア人材は状況、その時々によって変動しているということです。現時点でのトップ2割、コア人材を特定して、彼らに膨大な教育投資を行ったとしても、彼らの全員が3年後に同じくコア人材に選出されるとは限りません。人材は流動的でありますし、ビジネス環境、もっと言えばマクロな経済環境は日に日に変わっています。結論として述べたいことは、特定の人材に対して莫大な投資を行ったとしても、本来的な意味でそれの投資効果を長期的に得られるかという視点では、きわめて不透明と言わざるを得ません。
幹部候補生プログラムの存在をアピールしている会社もありますし、公にこういったトレーニングに力を入れていることを公表している会社も存在します。ただ、ほとんどのそのような会社は創業100年以上といった老舗企業であったり、すでに国際的に強い競争力を持っている企業であったりして、ほかの企業がすぐにまねできるような代物ではないことがほとんどだと思います。
今後は組織のフラット化が進み、また長期雇用を前提としない契約において働くことが進むと予測しています。その文脈で、これからの人材への教育投資のあり方は、もっと柔軟でもっと幅広く、スポット的に行うべきと考えます。