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パジャマはすごい|週末セルフケア入門

パジャマをおすすめします。じつは先日、初めて自分でパジャマを買いました。寝巻はずっと短パンにTシャツ(冬は上下スウェット)だったので、パジャマを着るのは子供のころ以来。効果は予想以上でした。他の服より、ずっと寝やすいのです。

ワコールとオムロンヘルスケアの「パジャマと眠りにかんする共同実験によれば、パジャマで寝付きにかかる時間が約9分短縮されるそうです。夜中の目覚め回数は15%減、睡眠効率は3%アップ。1日24時間、睡眠を8時間としたら、人生の三分の一は寝ていることになります。パジャマを着ないのは人生の損だといえるでしょう。しかし、ワコールが新社会人に対して行ったアンケートによれば、就寝時には「スウェット・ジャージ」を着ている人が46.4%、男性にいたっては51.6%と過半数でした。みんな、パジャマを持っていないのです

眠るのが下手だった私の話

大学に入り、ひとり暮らしを始めてから、私の睡眠サイクルはデタラメになりました。原因のひとつはお酒です。覚えたてのお酒が楽しかった。「淡麗」や「氷結果実」をよく飲みました。コンビニで500ミリ缶を二、三本買って晩酌する。大学では軽音サークルでドラムを叩いていたので、バンド仲間とも飲みました。朝まで飲むので、すぐ昼夜逆転します。夜になっても眠くないから、寝酒して寝ます。すると、眠りそのものは浅くなるので、いくら寝ても寝たりない。そんな生活を続けるうちに、すっかり眠るのが下手になってしまいました。

働き始めてからも、快眠とはいきませんでした。夜ふかし、晩酌が癖になっていたからです。よい睡眠をとれないと、朝起きるのがつらい。よく眠れたかどうかは、朝起きた瞬間に分かります。身体がだるい。頭がボーッとする。規則正しい生活をおくるようになったので、大学のころよりはましでした。結婚し、晩酌を控えるようになると、さらに改善しました。ただ、なんとなく自分の睡眠の質に不満は持ちつづけていました。

特に大変なのは出張時です。ビジネスホテルは落ち着きません。やはり、自宅のほうがよく眠れます。はるか古代、狩猟採集生活をおくっていた頃の人類は、ゴリラのように毎日ちがう場所にちがう寝床を用意して眠っていたといわれています。私は、定住生活にすっかり馴染んでしまったタイプの末裔のようです。出張先ではお酒を飲むことも多いので、うまく眠るためには工夫が必要です。睡眠が不十分だと翌日の仕事にも差し支える。体調が整わないと、私は不機嫌になってしまうので、公私ともに睡眠の質は課題でした。

パジャマ・耳栓・アイマスク

結論からいうと、パジャマ・耳栓・アイマスクは効果がありました。もたらすのは、習慣・静けさ・暗さです。この三つをそろえることで、出張先でも自宅でも、睡眠の質が改善しました。

パジャマは無印良品のものを買いました。さいきん値下がりして、3,000~4,000円台になっています。パジャマは高いものがおおいので、ありがたい。これが良いんです。パジャマに着替えると、心身ともに「寝るモード」になります。パジャマ姿になることが、寝るためのお決まりの予備動作=ルーティーンになっていると感じます。ルーティーンの鍵アイテムであるパジャマは、出張先でも力を発揮します。ふだんから肌になじんだパジャマの方が、ホテルの備え付けの寝間着などより、よっぽどよく眠ることができます。

耳栓は「サイレンシア」を愛用しています。私の場合、おろしたての耳栓は耳の穴が痛くなります。何度か使って、やわらかくなっているくらいがちょうどいい。安価なので、まとめ買いして持ち歩いています。眠るときだけでなく、カフェで作業するときにも使える。音楽を聴きながら作業することもおおいですが、静寂のほうが作業効率が高まることは、実験でも証明されています。長時間作業になると、イヤフォンを耳栓につけかえます。

アイマスクは、なぜか頂き物の「初音ミク」のものを使い続けています。暗い部屋でも、どこからか光は入ってきます。アイマスクをすると、入眠が早くなる気がします。職場や移動中の休憩にもいいでしょう(私がマイ・アイマスクでそれをやると、初音ミク男になってしまいますが……)。使い捨てのものだと、「めぐりずむ 蒸気のアイマスク」などもおすすめです。

惰眠をむさぼろう

パジャマが効果的なのは、前述の「寝るモード」習慣がつくほか、体温調節がしやすかったり、寝返りなどの動きに対応しやすいからでもあるそうです。

睡眠の科学』(櫻井武 著、講談社ブルーバックス、2017年)などによれば、睡眠はたんなる身体の休息時間ではありません。記憶や経験を整理する、脳のメンテナンス・タイムでもあります。睡眠時間を削ると、学習効率が落ちるだけでなく、精神的な悪影響もあります。本来、外的刺激に反応しなくなる睡眠は、生物にとって危険なものです。にもかかわらず、長い進化のなかでもこの機能が残されてきたのは、脳の健康を守るためです。飛ぶ鳥は落下しながら眠り、イルカは脳の半分ずつを眠らせながら泳ぎます。そこまでして、眠る必要が生物にはあるのです。

睡眠の質を改善するのも大切ですが、必要以上に惰眠をむさぼるのもよいと思います。寝ることには、凝ろうと思えばどこまでも凝ることができます。睡眠をより盛り上げる(?)アイテムもたくさんあります。お香、遮光カーテン、枕、マットレス……。ちなみに、パジャマ・耳栓・アイマスクのうち、私が毎日使っているのはパジャマだけです。自宅でこの三種の神器を使うと、寝坊するレベルで効果があるからです。「よし、おれは惰眠をむさぼる、外界のことなど知らん」という週末などに組み合わせて使います。べつに私は、睡眠を効率化して、起床時の生産性を上げたいと思っているわけではありません。惰眠をむさぼる生活も礼賛していきたいと思います。

眠ることは忘れることでもあります。睡眠は、記憶や情報を取捨選択する時間だからです。つらいときは「寝逃げ」することもあります。そうすれば、嫌なことも少しだけ、しかし確実に忘れることができる。これには科学的な根拠があったのです。

眠る前には本を読むのが好きです。眠りや夢は、昔から作家たちの想像を刺激してきました。イタリアの作家、アントニオ・タブッキの短篇集『夢のなかの夢』はおすすめのひとつです。ゴヤ、ランボー、ペソアなど、過去の巨匠が見たかもしれない夢を描く同書の一篇めは、こんな風に始まります。

何千年も前のある夜、正確には数えることもできない時代のこと、建築家にして飛行家、ダイダロスはある夢を見た。......




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鎌塚 亮
読んでいただいてありがとうございます。