通り過ぎていく恋の価値を教えてくれる映画、『ラ・ラ・ランド』
「好きな映画を教えて」とか「好きな本を教えて」と言われると、非常に身構えてしまう。というのも、そういった質問の回答からは、その人の価値観が大いに透けて見えるからだ。 “面白い” という感想は、過去の経験をぐるりと参照して吐き出される感情に他ならない。
多少言い過ぎだと感じつつも偏見を恐れず言うと、だからこそ、好きな映画が同じ人には共通点があるように思う。
例えば、少し前にこんなツイートが話題になった。「文化系女子の元カレはだいたい新海誠が好き」。私も文化系女子の端くれだが、久々に元カレから連絡が来て、何かと思ったら「最近すんごい映画見たんだよ」と新海誠の映画を紹介されたときには、「お、お前もか!」と叫びそうになった。
これは何も、新海誠の映画に限ったことではない。「セッション」とか「アメリ」とか「レオン」とか「インセプション」も、言語化できないけれど「この映画が好きです」と言われると「確かにこの人、この映画好きそう」と思うことがある。
これらもまた、過去の経験を参照した結果の偏見でしかないのだろう。しかし、コンテンツ消費というのは過去の経験が豊富になるほど面白くなる、というのは真実ではないだろうか。
中でも、恋愛経験が豊富になるほど面白くなると思うのが「ラ・ラ・ランド」だ。
※以降はネタバレを含みます
100%のハッピーエンドじゃないから美しい
『ラ・ラ・ランド』は、そのあらすじからして、いかにも映画的でロマンチックである。
なぜこの映画が恋愛経験を重ねるごとに面白くなるかというと、この映画は “通り過ぎる恋の価値を教えてくれる” ように思うから、だ。
この映画の結末は、決して100%のハッピーエンドではない。シンプルな「主人公たちは末永く一緒に幸せに暮らしましたとさ」という物語ではないのだ。人によっては悲しいエンディングだと語る人もいるだろう。
だからこそ、自分にとっての “セブ” や “デミ” が人生にいる人にとっては、この物語が自分の一部になっている過去の思い出と交差して、胸が脈打つように痛むに違いない。叶った恋の物語はこの世界にいくつもあるけれど、叶わなかったが美しい、そんな恋を描いた物語はそれに比べると少ない。
けれど、人生においては、今まさに続いている恋よりも、すでに終わりを迎えたものの、振り返れば美しい関係性の方が圧倒的に多いものである。(誰かとの大事な関係性をいくつもつくってきた人にとっては、)思い出す顔だって、今目の前にいる人よりも、振り返ってみたほうが多いに決まっている。
私がこの映画を最初に見たのは24歳の時で、その時の感想は単純に「歌が楽しいな〜」だった。しかし、年齢を重ねるごとに、じわじわとこの映画のシーンを思い出す機会が増え、そして確か27歳でもう一度見たときにはボロボロと涙が出てきた。
知っている痛みと、感謝がそこにはあった。
失恋がいつか前向きな気持に変わったら、見てほしい
世の中には「失恋したときに見るべき映画!」という記事も、それによくラインナップされる映画も数え切れないほどある。
『ラ・ラ・ランド』も、そういう記事で紹介されるような作品だが、私はむしろ、失恋から立ち直ったあとに見る映画として、この映画をおすすめしたい。
というかむしろ、恋愛ではなくても全く構わない。大事な人との別れを沢山経験したのちに、前を向いて暮らしている人ならば全員におすすめしたい映画だと思う。映画の中では恋人同士の話として描かれているけれど、彼らが近づき、そして離れてしまうなりゆきは男女という関係性だからこそのものではなく、人間同士のつながりが深まるからこそ起こる事象に見える。
『ラ・ラ・ランド』は、通り過ぎていったが自分の血肉となっている大事な人との思い出を、美しい映像と心を打つ音楽で、綺麗な思い出にしてくれる。蓋をしていたあの頃の思い出を引っ張り出して、前を向いて歩んでいこうと決めたあの日の自分を励ますように、物語は進む。
だからこそ、失恋してすぐに見るのにもぴったりな映画だけれど、あなたがもし、大事な人との思い出から立ち直り、その過去さえ愛せるようになっているならば、改めてこの映画をおすすめしたいと思うのだ。
きっと、その時流れる涙は、震えていようとも、今の自分を肯定してくれるものだろうから。
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