未来を変えるための再会:過去の自分との対話
地球に住む人類を救うためにはどうしたらよいのだろうか。
まずは過去の自分に会いに行くのがよいかもしれない。それが一番の方法かも・・・。
私は過去の自分(Mr.Seanとしよう)に会いに彼のオフィスを訪ねた。
彼は相変わらず仕事一筋といった感じで、ボサボサの髪にトレーナー姿でコーヒー片手に何やらパソコンをじっと眺めている。
なんだか懐かしいような自分の息子を見ているような不思議な気分になったのもつかの間。彼はぎょっとした顔でこちらを一点に見つめている。
しまった。
彼が驚くのも無理はない。この時代には瞬間移動装置はまだ開発されていなかったのだ。私はついつい2077年のノリで瞬間移動装置を使ってしまった。
仕事をしていたのに急に目の前に老人が現れたのだから驚くはずだ。
瞬間移動装置は位置情報さえ入力すれば地球上の行きたい場所へ瞬時に移動できる。地球があんな状態になる前は、地球上のどこへでも瞬時に移動ができた。この装置のおかげで世界はとても近くなった。むろん2077年のシェルター生活では、ほとんど使うこともなくなってしまったのだが・・・。最近はほとんど使用していなかったので、使用時のルールである訪問者に事前の了解を取ることを忘れてしまっていた。
「や、やぁ。こんばんわ。ご機嫌いかが?」
とにかく空気を和らげようと彼に話しかけてみる。
彼は目を大きく見開き微動だにしない。
夢と思ったのか目をこすっている。
「驚かせてしまってすまない。あーっと。そうだ。まず自己紹介をしよう。私の名前はSean。50年後の君だ。君がこれから発明するタイムマシンと瞬間移動装置で50年後の2077年からこの2027年のこの場所にやってきた。久々に瞬間移動装置を使ったので訪問の了解を事前に取るのを忘れてしまってすまない・・・。とにかくよろしく。」
彼は正気に戻ったのか身構えて、警察に連絡するか、今すぐ銃で撃ち殺すか次に取る行動を考えているようだった。
そしてドアのほうに目をやり、ドアに鍵がかかっていることを確認するとやっと状況が飲み込めたのか、私に話しかけてきた。
「えっと、あなたは何?幽霊ですか?どうやってここに入ったの?瞬間移動装置?どういうこと?何が起こっている?」
と、腰がひけながらも質問してきた。
私は再度、未来からやってきたことや瞬間移動装置の原理などを3度ほど説明し、やっと彼は状況を理解した。
それもそのはず。この2027年時には彼はタイムマシンや瞬間移動装置の構想が既にあったのだ。ただ、それは彼の頭の中だけの話であって、他の誰にも話したことがない。言わば自分しか知り得ない情報を目の前の老人が話している。しかも自分と声や顔まで似ているとなれば信じざるを得ないだろう。
自分が構想していたことが未来で現実になっている事に感動した様子の彼はとても上機嫌になり、酒でも飲もうかという話になった。
私とMr.Seanは近くのバーへ行くことにした。
懐かしい。酒。
2077年にも‶酒”はあるが、あくまでも粉末から生成したもの。
栄養などが個人の遺伝子情報に合わせて考慮されているので合理的な飲み物ではある。2077年の世界では本来の酒はもはや博物館に飾ってあるようなイ代物だ。
彼は相変わらず上機嫌で、ウイスキーを飲んでいる。
私も久々に飲む香り高いワインがとても懐かしく、つい、本来の目的を忘れそうになっていた。
「それで、未来の俺はなぜ今の俺に会いにきたんだい?」
Mr.Seanのお陰で本来の目的を思い出すことができた。
「実は君に大事な話があってやってきたんだ。単刀直入に言う。今、君がしている研究を今すぐ辞めて君の時間を地球のために費やしてほしい。私のいる未来では人類自体が滅びる。」
Mr.Seanは何を言っているんだこの老人はと言いたげな目で私のほうを見ている。それも無理ない。2027年時点ではタイムマシンを作ることが、人類が存続できる希望であると彼は信じていたから。地球は近い将来、天変地異によって破滅すると言われていたし、何より他国で戦争が激しくなってきており、いつ核が使われるかわからないような状況だった。彼はタイムマシンを作成することで天変地異や戦争が終わった世界に人類皆で行くことができる、もしくは平和だった過去に戻れるのではないかと考えていた。
タイムマシンは2年前に私が完成させた。地球の危機には間に合わなかったのだ。
Mr.Seanは急に私のことを疑いはじめた。
「あなたは未来の私であると言いましたが、未来の私が自身の研究を否定するはずがない。これは多くの人類を救う計画なのだから!わかるでしょう!」
まくしたてるようにそう言い、彼は出ていってしまった。
『失敗した・・・。』
私は心の中で思った。
そう、彼はとても強情で頑固だ。だからこそ様々な成功を収めることができたともいえる。私は過去の自分に対する認識が甘かったようだ。
よくわからない未来から来た老人の一言で信念を曲げるような男ではない。自分が一番わかっているはずだったのだが・・・。
時間はまだ、ある。
私は作戦を変更することにした。
※この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
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