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関心領域・隣の人は、なに思う…?(アドラー心理学ゼミナール秋講座②)
10月から月に一回、早稲田大学エクステンションセンター中野校で「アドラー心理学ゼミナール」の秋講座が開かれています。私は10年前から中野校でアドラー心理学を学び始め、最近はそこでの学びを自分の実践に重ねてnoteに記事を書いています。
まもなく12月の講座です。講座を直前にひかえ、11月に学んだことを実践と照らし合わせてふりかえります。
映画「関心領域」
本題の前に「関心領域」という映画のことを書きます。
半年前に「関心領域」という映画を観ました。ナチスドイツの占領下にあったポーランド、アウシュビッツ強制収容所の隣で暮らす収容所の所長の家族の物語です。映画の公式サイトにはこんなふうに紹介されています。
空は青く、誰もが笑顔で、子どもたちの楽しげな声が聞こえてくる。そして、窓から見える壁の向こうでは大きな建物から煙があがっている。時は1945年、アウシュビッツ収容所の隣で幸せに暮らす家族がいた。(中略)
スクリーンに映し出されるのは、どこにでもある穏やかな日常。しかし、壁ひとつ隔てたアウシュビッツ収容所の存在が、音、建物からあがる煙、家族の交わすなにげない会話や視線、そして気配から着実に伝わってくる。その時に観客が感じるのは恐怖か、不安か、それとも無関心か? 壁を隔てたふたつの世界にどんな違いがあるのか?平和に暮らす家族と彼らにはどんな違いがあるのか?そして、あなたと彼らの違いは?
つまりは、アウシュビッツ収容所の隣で裕福に暮らす家族の話です。その家族は毎日、窓の向こうの煙突から立ち上る黒い煙をながめ、一般家庭では耳にしない異質な音や悲鳴を聞きながら生活をしています。ただし、隣で何が起きているかを知っているかどうかは不明です。また、その状況をどう思っているか、そこが不思議なところです。
私は障がいのある人が利用する事業所を経営をしています。映画の上映中、約2時間、自分が経営する事業所のこと、その隣で暮らす人のことを考えながら映画を観ていました。
個人の中の「認知・感情・行動、信念、関心」のモデル
11月のアドラー心理学ゼミナールの中で、個人の中の「認知・感情・行動、信念、関心」のモデルについて説明がありました。人が物事を認知し、感情を生成し、行動に出る、その仕組みについてです。仕組みを説明します。
人は、物事を認知すると自分の信念(価値観・プライベートセンス)を参照し感情を作ります。感情は、その場の目標と現実の差により、うらづけの感情もしくはうながしの感情を作ります。うらづけの感情とは、心地良いと感じる感情です。反対にうながしの感情とは、自分の価値が脅かされたときに感じる脅威の感情です。この感情に基づいて人は行動を起こす、これが仕組みです。
また、人が認知するというのは自分が関心を持つことに対してです。関心を持つとそれを認知し、自分の価値を参照し、感情を使って行動に出るという流れになります。
関心がなければ不安にならない
近年、障がいのある人が暮らすグループホームが急増しています。しかし、このグループホームの建設に対して反対運動が起こることがあります。
なぜ反対運動が起きるのか。このような問いに対して、福祉関係者は「グループホームのことを知らないから」とか「理解がないから」と考えるのが一般的です。そこで本当にそうなのだろうかと思い、ある地域の民生児童委員の皆さんにアンケート調査をお願いをしました。その結果、65人の方から回答をいただくことができました。
アンケートの質問の一つに「障がい者グループホームについて知っていますか」という問いを立て、回答群は「よく知っている」「少し知っている」「知らない」にしました。また、別の質問では「自分の家の隣に障がい者グループホームができることになりました。不安はありますか。」と問いました。その結果「不安を感じる」と答えた人のうち55%が障がい者グループホームについて「少し知っている」と答えた人でした。(「知っている」12%「知らない」33%)さらに、自由回答で具体的な不安を書いてくれた人は、全員「少し知っている」と答えた人たちでした。
私たちは「知らないから不安を持っている」と思い込んでいました。しかし、実際は「少し知っている方が不安を持っている」ということが分かりました。民生児童委員という立場で関心を持ち、情報を持ってしまうことでより不安なことが高まったということでしょうか。今回は65人という少人数だったので、今後、範囲を拡大して調査したいと考えています。
関心領域
私の法人もグループホームと日中活動事業所を経営しています。事業所は、どこも住宅街の中にあります。事業所の中からは、大きな物音や奇声が聞こえてきます。隣に住んでいる人は、毎日、この音や奇声を聞かされて生活をしています。どのように感じているのでしょうか。
向後先生が説明するモデルによれば、関心を持つと感情が湧く、感情が沸くと自分に指令が届き、それに基づいて行動するということになります。関心を持ったとき、湧いてくる感情がプラスの感情であれば親密な行動ができます。反対にマイナスが感情が沸いてしまうと気分が悪く拒否的な行動に出なければならなくなります。それならば、知らない方がいい、関心を持たない方がいい、そう判断をしていると考えることができます。そうしないと平穏に暮らせないのかもしれません。
私たち、福祉従事者が啓発活動をする際は、関心を持ってもらうことで終わってはいけません。関心を持ってくれた人たちが安心して暮らせる、親密なお付き合いができる、そこまで考えて啓発活動をしなければいけません。
付記
毎年、社会福祉協議会と共同で短編映画を作って貸し出しをしています。今年は、映画を観たあと、主演者に会いたくなる、そんな作品にしました。ご興味ある方はコメントいただけると幸いです。