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「和賀英良」獄中からの手紙(7) ポリリズムとその実相
―丸山教授の最終講義―
世間ではあまり知られていないことだが、大学教授が定年退職する際には「最終講義」として特別な記念講演を行うことが一般的な慣習となっている。最終講義では、教授が長年にわたる経験や知識を振り返り、専門とする分野の重要なトピックスや研究の成果を述べることが多い。
東京藝術大学では本年度末で退官する打楽器科の丸山教授の最終講義が行われようとしていた。丸山は音楽教育者としての評価も高かったが、その豪快な飲みっぷりと自由奔放な発言でも学生たちに人気があった。
大学の小ホールにはほぼ満席の聴衆が詰めかけていた。そのほとんどが音楽学部の学生と講師、教授たちであり、そのなかには作曲学科教授の烏丸孝蔦とその助手の和賀英良の姿もあった。いつもは室内楽の発表や定期試験に使われる大学の小ホールだが、今日は舞台の中央には演壇があり、その右手には色鮮やかな壇上花が置かれていた。
音楽学部打楽器科 丸山孝弘教授 最終講義
演題 「ポリリズムとその実相」
と書かれた垂れ幕がステージ後方に降りている。
小柄で恰幅の良い、口ひげを生やした丸山教授が革靴の足音をリズミカルに響かせながらステージに登場すると、一斉に拍手が沸いた。
「丸山先生、長い間ありがとうございました!」
「お疲れさまでした!」
「よ―っ、待ってました!」
などの掛け声も方々から聞こえる。
丸山は陽気な笑みを浮かべながら、片手をあげてそれに答えてから演壇の前に立った。そして両手で抱えていた資料を丁寧に壇上に置いて聴衆に向かって深々と頭を下げた。
そして和やかな雰囲気で最終講義が始まった。
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第8話: https://note.com/ryohei_imanishi/n/ne8fb52f96a20
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