【論文要約】竹内康二・山本淳一(2004) 発達障害児の教科学習を支えるセルフモニタリング(研究時評). 特殊教育学研究, 41(5), 513-520.
学習参加や不適応行動のために、カリキュラム整備や指導技法の適用に加えて、子ども自身が、教科学習に影響を与える要因や条件を制御するスキルをもつことが重要である。 それは自己制御スキル(self-controlまたはself-regulation)といい、大きく6つある(Zimmerman & Risemberg, 1997)。 ①動機づけ(目標、強化子、罰などの自己設定)、②学習方略の適用(リハーサルや要約などのスキル)、③時間の使い方(課題に必要な時間の推定やプランニング)、④物理的な環境の制御(課題の遂行に適した場所や場面の構成)、⑤社会的な環境の制御(他者の援助の要求など)、⑥課題遂行やその結果を自ら観察し、記録する行動(パフォーマンスのモニタリング、できることとできないことの評価など)に分類されている。
具体的には、期限をきって、目標をたて、一回あたりの時間や量を決め、必要なお願ごとを整理して家族等に伝える。 一回ごと、できた分を記して進める。 なかでも自分自身による確認と評価を可能にする、パフォーマンスのモニタリングの重要性は高い。 自身の活動の結果(成績や得点、遂行した問題数や、課題従事時間)をモニタリングすることで、学習態度、目標、学習方略、学習計画などを改善、学業達成を向上させることになる。 以下、発達障害児の教科学習に対するセルフモニタリングの手続きと効果、セルフモニタリングの効果に影響を与える要因に焦点をあてる。 実際の授業場面での応用可能性についても検討する。 応用行動分析学の立場から論じる。
セルフモニタリングには、観察と記録の過程があり、それには記録シートや記録装置が用いられる。 観察の過程では制御すべき標的行動の生起に気づいて弁別すること(自己観察)、記録の過程では標的行動のある次元、たとえば頻度や時間について記録すること(自己記録)が求められる。 主なものには、①頻度カウント(一定時間内に生じる反応回数)、②時間測定(行動の生起している時間の長さ、所要時間)、③タイムサンプリング(一定の時間間隔をあける、課題従事)、④チェックリスト(行動項目の記述、リスト化し、完了項目をチェック)、⑤分析的記述(自身の行動や文脈の記述、直前の状況と直後の結果)、⑥行動評定(主観的評価、まったくない~よくある)、⑦達成記録(課題の得点など)で行われる。
セルフモニタリングの記録の選択または組み合わせは、標的行動との適合や使用者の機能的・発達的レベル、望まれる効果の程度などによって決定される。 セルフモニタリングは、系統的な行動の変化をもたらすことが指摘されている。 こうした効果は、教科学習、社会的行動等にも影響を与えるとされる。 教科学習のセルフモニタリングは、課題従事時間、課題生産性(完了問題数)、課題正確性(正答率や正反応率)が増加するとされる。
以下、とくに(成熟度、認知的スキル、動機づけなど学習者に関する要因は省き)操作可能な手続き的要因について、5つに分類し示す。 ①記録装置と記録方法(視覚的聴覚的に注意を引きやすいもの)、②標的行動の性質(見た目に明らかな正反応を記録)、③記録タイミング(標的行動の直後セルフモニタリング、継続的セルフモニタリング)、④目標設定(セルフモニタリング促進にかかわる)、⑤正確な自己記録(記録の正確さの改善)等がある。 セルフモニタリングの研究は未完全なものの、既にある程度成熟している。
学校の授業場面でも発達障害児がセルフモニタリングを実施し、(同学年の健常児とほぼ同じ水準にまで)課題従事や生産性を改善できること、教師と子どもの関係を改善することがわかっている。 特別支援教育のためのひとつの方法、結果としてインクルージョンの実現を図るひとつの方法ともいえる。 さらに研究が行われ、セルフモニタリング手続きの適用範囲の拡大(時間的、空間的拡大)、手続きのフェイドアウトと効果の維持、集団作業に適用する学習者間で生じる個人差の影響などの予測される問題の分析と対処法の開発が明らかになることが求められる。
応用行動分析学は、環境と個人の相互作用という観点から支援方法を構築する。 そのため、セルフモニタリングを獲得し、学業達成が進む学習環境への整備に用いるために有効である。 セルフモニタリング行動を生み出し、安定させ、維持させる環境条件は、「行動に先行する環境事象」として①行動の手がかりとなる弁別刺激と②強化刺激の行動増加効果を規定する確立操作、ならびに「行動の後に随伴する環境事象」としての③行動を増加させる強化刺激の3つである。 また応用行動分析学では、人が活動しているときは、2つ以上の行動が同時にある一定の率で生起しており、それがある一定の割合で決定されると考える(たとえば、課題遂行行動と机への落書き行動)。強化の機会(即時や遅延)、強化の価値(課題遂行と机への落書き行動それぞれの手ごたえ具合)等も関わる。 直後に生じる結果によって制御されている行動を、時間的に遅れて生じる結果によっても制御されるように置き換える。
記録用紙を弁別刺激として、課題の自発的な遂行や一人での活動を可能にしていく。 これまでの学習量の記録用紙が、活動のきっかけをあたえることもある。 このもとではこうなる、という行動随伴性を記述したルール提示は、より安定した活動を可能にする。 弁別刺激を自身で決定できるようになると、自己決定の促進につながる。 目標設定と結果が一致したとき、自己効力感が生じる。 ある目標やルールに対する結果フィードバックとして、セルフモニタリングが行われる場合、その結果に応じて自発的に目標やルール修正、新たに設定する行動が促されるかもしれない。
セルフモニタリングは、自己の行動の結果について知らせる手続きであり、自発的な目標やルールの設定に必要な要素となる。 こうした自発的な目標やルールの自発は、自己教示スキルのひとつで、自己決定を促すのにものとみられる。 自発的な目標やルールを設定することが、将来得られる(遅延される)強化刺激を予測、将来にむかって行動を方向づける機能をもち、将来の行動を制御することになる。
ブログ「生活と人間行動」の記事(2005年4月13日)再記。