じいちゃんが亡くなった。ぼくの全身が泣いた。
悲しいのか何なのか、自分がどんな状態なのか分からなかった
父方のじいちゃんが亡くなった。入居していた病院で誤嚥をきっかけに心肺停止になり、そのまま息を引き取った。誤嚥というのは、気管に食べ物が詰まってしまうこと。介護に携わる義理父に聞いたらよくあることだそうだ。体力が落ちていたじいちゃんはむせる力もなかったんだろう。
悲しいのか何なのか、自分がどんな状態なのか分からなかった。とにかくじいちゃんに会いに行くことにした。通夜や葬儀の日取りはまだ決まっていないけれど、病院から自宅に運び込まれてお坊さんが来て死化粧されているそうだ。
1日の疲れと出かける準備と何も分からず遊びたがる息子に少しイライラしてしまっていた。自分の感情がどうなっているのか理解したくて心鎮めるけど、いまだにどんな状態かわからない。なんとか風呂にいれた息子を着替えさせて車に乗せて夜中のドライブに出発する。外は既に真っ暗だったけど、満月が近いせいか明るくて、涼しくて秋の虫が鳴いていた。
くそじじいに細胞が泣いていた
黙々と車を走らせているとき、なんだか「くそじじい」と心の中で何度も言っていた。次男だったけど長男が大学に行き、実家の農業を継ぐことになったじいちゃん。ばあちゃんと二人三脚で梨づくりをしていたじいちゃん。家にいくといつも拳よりもでっかくて瑞々しい梨を用意してくれてたじいちゃん。ばあちゃんに罵声をあびせていたじいちゃん。昔はサングラスかけて強面だったじいちゃん。家族のいうことを聞かないじいちゃん。酒が大好きで毎日飲んで、正月は一日中飲んでいたじいちゃん。梨をやめてからみるみる体力が落ちて運動もしなくて動けなくなっていくじいちゃん。本やテレビに新聞が大好きなじいちゃん。ほんとは自分ももっと勉強したかったじいちゃん。最後は病院で入院していたじいちゃん。意外とガタイが良くて痩せてても後ろ姿で分かるじいちゃん。
家に近づくとなぜか夏休みにじいちゃんちに行く時のことを思い出した。なぜか日の出前の早朝に熊本を出発して向かっていた。寝ぼけて車に乗せられ、朝焼けと一緒に車の中で起きて、外の空気はまだ涼しくて、じいちゃんちの近くの風景が見える。困ったじいちゃんだったけど、最後に思い出した記憶はあったかくぼくらを迎えてくれるじいちゃんとばあちゃんだった。
そうこうしてるうちに家についた。既に熊本の両親と兄、いとこが集まっていた。いとこと「おう」と挨拶して、父に息子までよう連れてきたなーなんやかんやと言われ、ばあちゃんがいた。そのままハグした。ハグした瞬間ボロボロ泣けた。
奥にはじいちゃんが布をかけられて寝ていた。目の前が霞みながらじいちゃんのそばに行く。悲しいとかいう感情の前に勝手に涙が出てきた。全身に力が入って身体が真っ赤になっていた。死んだじいちゃんを前にして、ぼくの細胞が泣いていた。細胞に記憶されているじいちゃんの細胞たちがおいおい泣いていた。ぼくは全身が泣き止むまで付き合ってやることにした。
こんなに自分が泣くなんて自分でびっくりしたし周りもびっくりしていた。今夜、お通夜でじいちゃんと一緒に最後の夜を過ごす。みんなでじいちゃんとの思い出を話してちゃんとお別れしたい。