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何をもって「自覚」となすか

#就労支援の現場から


私たちの就労移行支援事業所では脳卒中や身体障害、高次脳機能障害の方を主な対象としている。

就労支援を行っていく中で避けては通れない、むしろ一番大事になってくるのが本人の「障害理解」だったりする。中でも高次脳機能障害の方にとっての「障害理解」はハードルが高い印象がある。

ついこの前までは「普通」に生活していたのに、何事もなく「出来て」いたのに、脳卒中を発症することでそれらが「出来なく」なる。これを受け入れ、理解をするのは容易なことではない。

病院等のリハビリをするところでは”エラーレス”が中心だと言われている。

エラーレス:誤りや失敗をさせない学習法。出来る経験を積んでいく。

最初にヒントを与えて成功体験をつくり、少しずつ段階をあげていく。とても大事なことだ。

でもこれでは自分が「できない」「苦手」なことをある程度知っていても、自覚にまでは至らないと思っている。リハビリの段階であればそれでも大丈夫だとは思うが、社会復帰・仕事復帰となってくるとこのままじゃ難しい。

なぜなら外の世界に出れば出るほど、察してくれる人が減っていくから。

病院という環境、福祉施設、就労支援施設という環境にいればある程度「この人はこういう人」という認識が共有されている。だからその方にあった関わりというのが共通認識である。

だけど社会に出たらそうはいかない。自分のことを知らない人の方が多い。だから自分で乗り越える術、対処する術を身につけなけれならない。

自覚=知っている、という枠でとどまらず、
自覚=「出来ない」を知っていて、自分で対処すべき術をとることが出来る

就労支援の人間としては何とかここまでいきたい。
それが出来ないことで大変な思いをしてしまうのは本人だから。

これは就労支援に限らず、誰しもにとって言えることではあるが。

*

問題はどう自覚につなげるか、ということ。

実際問題として「エラーレス」だけでは自覚にはつながらない。出来ないことを遠ざけたり、出来ないことをしょうがないと思ってしまうことある。

就労支援での関わりとして個人的に意識しているのは、

エラーを自覚してもらうこと

出来ないものとも真正面から向き合い、その出来なさとも真正面から向き合う。そして途中で妥協せず、完璧な状態になるまで続けること。

「途中で妥協せず」って結構大事なことだと感じてる。

取り組んだ問題に対して、

「これくらいエラーがありましたね」

という結果の確認だけで終わったら、エラーに対しての危機感が生まれない。出来なくてもしょうがないし、なんとかなる、という考えが生まれかねない。

だから「エラーをエラーのままで終わらせない」

「これくらい間違いがありましたね。よし、修正してみましょう!」

修正→報告。

「まだ〇カ所間違いがありますね。もう1回修正しましょう!」

修正→報告。

「あと〇〇が間違ってますね。一緒に確認しましょう!」

完璧になるまで終わらせてくれない、という意識付け。途中で投げ出すということが出来ないから、いやでも「どう対処すべきか」を考える。

「できない」「苦手」と向き合うのは辛いことだ。私だってそう。段々イライラしてくることもあると思う。そこはもう信頼関係だと思っている。

信頼関係を生む1つの要素は”納得感”だ。

「この人がこう言っているんだからまずはやってみるか」

そのために必要なのは常に目的を共有すること

「どうしてこれをやっているのか」
「どうして完璧になるまで終わらせないのか」

説明を言葉にすることで納得感につながる。納得できない場合は、その思いを伝えてもらい、「じゃあどうすればいいか」を一緒に考える。

もう1つ必要なのは成長の実感。

いくら納得感のいく説明でも、それが結果につながらないと長続きはしづらい。だから結果を見える化する。常に「見える」状態にすることで小さな変化も目に付くようになる。それが嬉しかったりする。

これを繰り返しやっていくことで、
自分の「できない」「苦手」の傾向を知り、どうすればそこに対処できるかの術を意識的に身につけていくことが出来る。

そこまでできてやっと「自覚」というんじゃないかと個人的に思っている。

*

「自覚」は決して簡単な道のりではない。
そして最終的にその壁を乗り越えるかどうか決めるのは本人。
本人がそこまで望まないのであれば強制することはできない。

時にはあえて厳しいことというか、細かい部分のこともいう。

でも言いっぱなしにだけはならないように、というのは常に意識しているところ。言ったからには最後まで見届ける義務がある

「あなたは頑張っている」ということを伝える。
「あなたはここが成長している」ということを伝える。
だからこそ、
「あなたはもっとここを意識することが出来る」ということも伝える。

『一緒に』その人の「出来ない」と向き合いながら、『一緒に』乗り越えていく。私がずっと意識していきたいところだ。

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塩浦良太
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