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論文紹介:Effects of Virtual Reality Pilates Training on Duration of Posture Maintenance and Flow in Young, Healthy Individuals: Randomized Crossover Trial(Sung Je Park, Jea Woog Lee, 2023)

こんにちは、駒井です。
昨日は仕事終わりにピラティスの体験レッスンに参加しました。初心者向けのコースでしたが、短時間でもしっかり汗をかく運動量で、昨晩はいつもよりぐっすり眠れたように感じます。レッスンを受けたスタジオには、さまざまなコースが用意されており、テクニカルな上級者向けのコースもありました。技術的な奥深さを追求する点では、どこか球技に通じる要素があるように感じます。
そんなこともあり、今日はピラティスとフローに関する論文を読んでみたいと思います。

読んだ文献

Park SJ, Lee JW. Effects of Virtual Reality Pilates Training on Duration of Posture Maintenance and Flow in Young, Healthy Individuals: Randomized Crossover Trial. JMIR Serious Games. 2023 Oct 19;11:e49080. doi: 10.2196/49080. PMID: 37856178; PMCID: PMC10623234.

要約

研究目的

この研究の目的は、従来のピラティストレーニングと比較して、VRピラティストレーニングが若年健常者の姿勢維持時間とフロー状態にどのような影響を与えるかを調査することでした。研究者たちは、VR技術を活用することで、ピラティス由来の低強度運動や姿勢の効果と持続時間を向上させることができると考えていました。VR環境におけるフロー状態を活用することで、被験者は高いフローレベルを維持しながら、これらの運動に長時間従事できると仮定しました。

研究方法

  • この研究は、20歳以上の韓国人男性の体育学部生18名を対象とした無作為化クロスオーバー試験でした。
    参加者は、VRトレーニング群と従来のトレーニング群に均等に分けられました。各群は、VR環境または従来の環境で、4種類のピラティス運動を11分間行いました。
    VR環境は、具体的には以下のような環境でした。

  • ヘッドマウントディスプレイ(HMD)を用いた没入型のVR環境: HMDはHTC Vive Cosmos Eliteが使用されました。 参加者はHMDを装着することで視覚が遮断され、VR環境に没入することができました。

  • Google MapsをベースにしたVRシステム: 参加者は、3Dで表現された高い山と空の景色を体験できました。

  • ピラティス運動と連動したVR映像: 参加者がピラティス運動を行うと、VR映像にも変化が現れる仕組みでした。 例えば、山や空を飛行しているような感覚を味わえました。

  • 女性専門インストラクターによる音声ガイダンス: VR環境でのトレーニング中、参加者は女性専門インストラクターの音声録音によるガイダンスに従ってピラティス運動を行いました。

各セッションは、3分間のウォーミングアップ、5分間のメイントレーニングセッション、3分間のクールダウンセッションで構成されていました。2日間のウォッシュアウト期間の後、参加者はもう一方のトレーニング群に切り替えられました。
姿勢維持時間は、スポーツビデオ分析プログラム「Dartfish」を用いて測定されました。フロー状態は、セッション終了後に自己記入式質問票を用いて評価されました。データ分析には、反復測定分散分析とピアソン相関分析が用いられました。

結果

  • VRトレーニング群においては、従来のトレーニング群と比較して、すべての種類の姿勢維持時間(単純動作、上半身と腕の協調動作、上半身と脚の協調動作、全身協調動作)が統計的に有意に延長する結果が得られました。

  • VRトレーニング群では、すべての種類の姿勢維持時間とフロー状態との間に有意な正の相関が認められました。これは、VR環境におけるトレーニング中にフロー状態を強く体験した被験者ほど、姿勢維持時間が長くなる傾向があることを示しています。

考察

  • VR環境は、バランスと姿勢の安定性を向上させることで、姿勢維持時間を延長させている可能性があります。 VR環境では、視覚情報や体の動きに対するフィードバックがリアルタイムに提供されるため、従来のトレーニングよりもバランス感覚を養いやすいと考えられます。

  • VR環境は、参加者を仮想世界に没頭させることで、運動への集中力を高め、フロー状態を誘発しやすくなると考えられています。 フロー状態とは、課題に集中し、没頭している状態であり、この状態では時間感覚が歪み、パフォーマンスが向上すると言われています。 VR環境は、視覚的・聴覚的な刺激によって参加者の注意を惹きつけ、現実世界から切り離されたような感覚を与えるため、フロー状態を経験しやすいと考えられています。

  • VRトレーニングにおけるフロー状態は、姿勢の安定性と維持時間の向上に貢献している可能性があります。 フロー状態を経験することで、参加者は運動課題の難易度に対応し、習熟感を感じながらトレーニングに取り組むことができると考えられています。 その結果、姿勢制御能力が向上し、姿勢維持時間が長くなると考えられています。

この研究は、VRピラティストレーニングが従来の方法と比べて姿勢維持時間とフロー状態にプラスの影響を与える可能性を示唆する重要な結果を示しています。ただし、この研究は参加者数が限られており、短期的な介入であったため、これらの結果を一般化するには、さらなる研究が必要です。

補足資料

p.3より引用
p.3より引用

自分にとっての学び

エクササイズにVR技術を組み合わせた際の効果を検討する研究アプローチは、テクノロジーが日進月歩で進化する現代において、非常に重要な意義を持つと感じました。ピラティスは激しい移動を伴わないエクササイズであるため、転倒リスクが低く、VR技術との相性が良いと考えられます。一方で、卓球などの球技ではこのような組み合わせは難しいかもしれません。
本研究で利用されたフロー尺度は明記されていませんでしたが、「ピラティス運動の実施後に、課題、行動、目標、フィードバック、集中力、コントロールといった項目に関する回答が求められた」と記載されていました。先行研究との関連性を明確にするためにも、どのフロー尺度が用いられたのかを特定することは重要であるように思います。
また、VRプロダクトの仕様によって効果が大きく変わる可能性がある点にも注目すべきです。これにより、「姿勢維持やフロー状態を促進するVRプロダクトとはどのようなものか」という問いを立て、さらに深掘りしていける可能性があると感じました。

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