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「留学がしんどい」あなたへ —スタンフォード大学の留学がつらくて帰国しようと思った話—
はじめに
こんにちは。
ハーバード大学院での春学期がもうすぐ始まろうとしており、私の2年間の海外留学も残すところあと1学期となりました。
振り返れば色々なことがありました。楽しかったと思うことと同じくらい、大変だったこともあるように思います。今となっては、あっという間に1年半が過ぎたようにも感じますが、去年のちょうど同じ時期(1月)、スタンフォード教育大学院での2学期目(冬学期)が始まった頃は、ちょっともう、留学しんどくてつらいな、これがあと1年以上続くのかと絶望の淵に立たされかけたこともありました。事実、妻には帰国するのってどうかな?みたいな相談をしたことも覚えています。
その時、いろいろな人に相談したり、妻の励まし等もありまして、完全に崩れずマイペースに進めてなんとかその場は乗り越えた(そしてスタンフォードも無事に卒業できた)わけですが、ネットで検索すると、やはり一定数の方々が、留学のつらさから帰国したいという思いをお持ちだということも分かりました。SNSなどでは、留学のキラキラした面が目立ちがちですが、決してそうではない部分もあるよね、ということを私自身、身に染みて感じる次第です。
ということで、今回は、留学がしんどくなった時のことを振り返り、そう思ってしまった要因と、どのようにして(一応)乗り越えたのかということを綴ってみたいと思います。
休み期間を経て新しい学期が始まるこの時期に合わせて、自分自身が同じ轍を踏むことの無いよう、自戒の念を込めつつ、同じような思い・境遇の方の心が少しでも救われれば幸いです。
心がしんどくなった理由
①2学期目から授業の難易度やスタイルが変わった
最も大きな悩みは、「研究」というよりもむしろ「授業」の方にありました。そしてその根源的な問題は「英語力」でした。
最初の学期(秋学期)の時点で、初めての大学院留学で周りがネイティブばかりの環境に慣れるのもやっとで、
・なんとか大量のリーディングを読んで予習し、
・リスニングが苦手ながらもレクチャーを頑張って理解しつつ、
・ディスカッションでたどたどしい英語を話しながら食らいつき、
・課題を提出して
一応はこなしていた状況でした。
2学期目(冬学期)からは、基礎的だった必修の授業がなくなり、少し授業のレベルが上がったことと、授業の回し方も、より一層アクティブ・インタラクティブになり、更なる負荷がかかる(と思った)ことが、冬学期が始まった当初、気持ち的にしんどい部分がありました。具体的には、
・授業で課されたリーディング(論文)の内容を要約し、クラス全体にプレゼンし、授業をリードする
・授業で課されたリーディング(論文)の内容について、スモールグループでディスカッションする際のファシリテートを担う
・自分の論文のプロポーザルをクラスメイトにプレゼンし、教授や学生からのフィードバックを得る
などの「Speaking」「Listening」が肝要な授業がいくつもあり、特にこれらに苦手意識があった私にとっては、当初かなりoverwhelmedな気持ちになってしまいました。ただでさえ、人が喋っているのを聴いて、ついていくのがやっとなのに、周りをリードしなきゃならないんかい…しかも自分が必ずしも詳しくない分野(リーディング)をやるかもしれないんか…という具合に、不安要素を見つけては、鬱屈とした気分に陥ってしまいました。
②冬休みを挟み、もう一山登るのが大変な気持ちになった
こうした授業のつらさをより感じることになったのは、学期の間に3週間くらいの(社会人にとっては長い)冬休みがあったことも原因にありました。
もちろん、冬休み自体が「悪」だとは思っていません。笑 が、秋学期でピンピンに張り詰めていた緊張の糸が、冬休みでいったんぐしゃっとほぐれてしまい(切れかけた)、そこからエンジンをかけるのは、なかなかきついなという思いがありました。
具体的に、秋学期では、先述の授業の取組のほかに、「研究」もロケットスタートで進める必要がありました。
・論文についてテーマを確定させ、
・OutlineやIntroductionの部分について添削を受けたり、
・Literature Review(過去の先行研究から、自分の論文の研究意義を固める作業)、
・仮のプロポーザル(Pre-Proposal)をまとめる
という具合に、初めての大学院留学の1学期目ながら、いきなり「授業と研究の両立」をやらねばならず、あれもこれもと「てんてこ舞い」で、相当応えるものがありました。
正直、秋学期途中(Thanks giving)で既に息切れしていた状況だったと振り返って思います。1週間弱あった11月のThanks givingのお休み(授業なし)も、上記のLiterature Reviewをまとめる重めの課題が出されており、ゆっくり休めず、「早く長期休み来い!!!」と思いながら過ごしていました。苦笑
そんな具合でなんとか最初の学期を乗り越えての冬休みだったので、それはもう、妻と旅行に出かけたり、(日本には帰れなかったので)家族とオンライン電話をしたり、日本のコンテンツを楽しんだりして、日本を懐かしみ、羽を伸ばしたり休めたりしていました。ですが、おそらくこの時点で、ピンピンに張っていた緊張の糸が切れかけていた状況だったと思います。
また、日本に思いを馳せることで、日本への郷愁や、日本での仕事のことなどを思い出し、「なんでこんなに辛い思いをしてまで留学をしているのか?」という考えもよぎってしまったことを覚えています。これは私自身が組織からの派遣である(帰る元がある)という性質にも起因している部分があると思いますが、極論、帰る場所がある中で、思い悩み苦しんで、身を滅ぼすくらいなら、帰った方が自分の心身にも良いだろうなという考えがよぎっていました。
そうした中で2学期目が始まり、2年間の留学の予定で渡米していた状況を客観的に見て、あと自分の留学は1年半以上も残されているのか…と思うと、上記のような辛さをもう一山も、二山も三山も登って行かなきゃならないのか…という山の「多さ」そして「高さ」に愕然とし、終わりが見えなくなるとともに自分にできる気がしないと思って、結果として帰りたい気持ちが一層強くなりました。
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③息抜きや娯楽を楽しむメリハリの心がなかった
帰りたい気持ちに拍車をかけたのは、私が元来、きまじめな性格であることに起因する、なんでも頑張り過ぎてしまうところにも原因があったように思います。最初の秋学期での経験からして、課された授業の事前リーディング、事前課題などにしっかり取り組もうとして、土日を含めて四六時中、出かけもせず授業外であまり人とも会わず、家や図書館にこもって勉強していましたが、こうしたことで「授業=しんどい」というイメージを自分の中で作ってしまっていた部分があるかもしれません。
スタンフォードは、比較的田舎の広大な土地にあるドでかいキャンパスで、逆に言うと、そこから街にくり出すのは、車を持っていないとなかなか難しい部分があります。私は1年しかいない前提だったので、車を持たない選択肢を選びましたが、結果的に行動範囲が狭くなりがちだったこともあり、勉強は大変だ、遊ぶことや物もそんなにない(と思い込んだ)ので、どんどんマイナス思考の深みにハマってしまったように思います。
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どうやってしんどさに対処したのか
①授業の履修は無理をせず、自分の「本来やりたいこと」を中心に据える
上記のとおり、私の場合、いちばんの原因は、授業の負荷がかかりすぎることへの不安や負担感でした。これらにどれだけ割く必要があるのか、自分が使える限られたリソース(時間と能力)と「自分が本当に留学でやりたいこと」を考えた結果、私は難しい授業をたくさん履修するという考え方ではなく、「学んだ成果を今後の日本の教育に活かす」「修士論文を良いものにして日本に持ち帰る」ことが自分にとって最も重要だとの考えに至りました。
このため、授業を無理しすぎることなく、一部の授業について履修を変更するなどして、授業のワークロードを減らして(ディスカッションの多い授業を1つ取りやめました)、研究にも専念できる環境を自ら構築することで、不安要素を1つ潰しました。
②プレゼンやディスカッションはできるだけ「準備」して臨む
それでも、クラス全体をリードするプレゼンを行ったり、スモールディスカッションをリードする授業は引き続き履修していた(選択必修かつ学びたい内容でもあったので履修しました)ので、引き続きプレゼンやディスカッションへの不安や恐れは残っている状況でした。
これについては、もう「とにかく事前にできる準備をするしかない」ということで、自分がそうした役回りを行う授業の日に備えて、できるだけ準備し、少しでも不安を減らしました。
具体的には、
・プレゼンは話し方(how I present)よりも内容(what I present)で勝負するしかないと思って、事前のリーディングをしっかり読み込み、質の高い内容になるようにスライドを作成
・話が上手くない分、スライドの見せ方を、聞き手に伝わるように工夫
・プレゼンに当たっては、事前に原稿(スクリプト)を作成し、何度も何度も読んでスラスラ話せるようになる(「原稿読んでいる感」が出なくなる)まで練習 ※15〜20回くらい
といったことに取り組みました。そうすることで、
・内容を理解しているので、ある程度不安が軽減される
・内容を工夫したことで(オリジナリティを入れたことで)、プレゼンについてちょっとモチベーションが出てくる(例えば、自分の考えや経験談を交えることで、発表したいという気持ちは少し高まりました)
・練習をしまくることで、「もうこれだけやってダメならしょうがないよね」と開き直れる
というマインドに持っていくことができたように思います。
③留学経験者などに相談する
こうした、ある種の開き直りで授業を組み直したりプレゼン等に臨んだりできたのも、いろいろな経験者に相談して助言をいただけたからこそだと思っています。
わたしの場合は、同じ組織に所属して過去に留学されていた先輩や同僚などにLINEで事情を伝えて、色々と助言をいただきました(その際、自分と似たような専攻かつ非帰国子女の、境遇の近い方にご連絡しました)。
また、クラスメイトにもう1人だけ日本人がいたのですが、その友人にも発表直前に励ましの言葉をかけてもらったり、妻にも学期当初は随分愚痴を聞いてもらったりと、心の支えになる方の存在は大変ありがたかったです。
その際、困難にぶち当たった時のマインドセットについて、いくつか刺さるコメントをいただいたので、ぜひみなさんにも共有します。
マインドセット1:「できない自分」がどのように変わるかの「過程」を楽しめ
先輩から言われたアドバイスです。日本から留学に行く人の中には、日本での成績が優秀だったからこそ、海外にもチャレンジするという人は少なくないのではないでしょうか。(おこがましいながらも)自分もそうした自負を持ってアメリカにやってきましたが、言語の壁や、大学における授業のスタイルの違いなどにぶち当たって、挫折に近い感覚を味わいました。
しかし、勉強というのは「できないことができるようになる」のを身につける環境です。できないこと大歓迎。そのスタート地点から自分が少しずつステップアップしていく過程を楽しめるようにマインドを切り替えられると、「今」できなくでも「学期終了時」「卒業時」には少しでも進歩しているという期待感のもとに、授業や課題に取り組めるのではないかと思います。
マインドセット2:今起こっている悩みは、後から考えれば杞憂に過ぎないと思え
これはスタンフォードでの論文の指導者たるアカデミックアドバイザーに言われたアドバイスです。
言われた時はあんまりピンと来なかったのですが、あとあと考えるにつれ、確かにそうだなという思いが強くなりました。特に、きまじめな方は、ネガティブ思考に陥って不安要素を見つけてはさらにネガティブになる、といったことを繰り返していないでしょうか。
こと仕事においては、リスクヘッジの観点でそうしたことは重要な部分もあると思うのですが(自分も社会人なので、働いている時は、不安なことはなるべくゼロにしたいという思いで仕事をしがちだったのですが)、こと学問や留学の勉強においては、仕事以上に突き詰めようと思ったら果てしない分野であり、あまり完璧主義にやるのは費用対効果が悪すぎる、と思いました。
プレゼンの準備など、必要な備えはもちろんやったほうが良いですが、それ以外の日々のリーディングや、課題などは、別に100点を取ったとしても人生が大きく変わることでもないだろうし、ポイント(本質)を自分が理解したかどうか、知見として何が得られたか、といった形で、もう少し広い視野で日々の留学に向き合った方が良いなと思いました。
また、「杞憂」という点では、ディスカッション時の自分の発言がどう思われるかとか、変に他者の目を気にし過ぎてしまう部分が私にもありましたが、「どうせ学期が終わったら/卒業したらその時の自分の発言なんて覚えている人はいないだろう」と都合よく割り切ることで、あれこれ細かいことを考えることはやめようと思いました。
④勉強・研究以外の楽しみを見つける
勉強でキャパシティをいっぱいいっぱいにする必要はない、自分へのご褒美や楽しみを都度都度取り入れながら心身を健康に過ごしていこうと思ってからは、勉強(予習など)もほどほどにして、いくつか生活のスタイルも少し変えました。
その時に(今もですが)自分が勉強以外で楽しみにしていたことを共有します。
「外食!」
円安の厳しさもあって、また妻と二人暮らしで生活していたこともあったので、なるべく食費を抑えようと思って自炊をずっとしていたのですが、自分へのご褒美や気分転換も兼ねて、2週に1度くらいの頻度で、週末は外食に出かけることにしました。
スタンフォード大学近くのパロアルトにも日本料理のお店(寿司、ラーメン、やよい軒など)があったり、妻の好きなIn-N-Out Burgerなどに時々行ったりして、アメリカを楽しみながら留学生活を送るようにしました。
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「筋トレ!ジム!」
冬(当時)で鬱屈としがちだったからこそ、体を動かして健康を保とうと思ったこと、アメリカではマッチョが善とされていること(?)、とある同僚からも体おっきくして帰ってきてねと言われたこと(笑)などから、最低でも週2回は運動しようと思い、自宅やジムでの筋トレ、ジョギングなどをやるようにしました。
素晴らしいことに、スタンフォードは以下のようなジムを無料で使えることができ(ハーバードのジムは有料です…しかも高い…泣)、また外でジョギングなどの運動をするにも、冬でもそこまで寒くはない(雨は降る日もありますが)ので、よい気分転換になりました。
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「出かける!人に会う!」
身近に大学以外の娯楽施設がなかなか無く車でアクセスが難しいなと思いながらも、時折週末などに、Uberなどを使って出かけにいくこともしました。
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また、キャンパス外に出なくとも、クラスメイトとの授業外での交流(餃子パーティーやBBQなどしました)、新たな日本人の方々との出会い(Visiting scholarsの方、在外派遣の方、現地で働かれている日本人の方などと色々知り合ったりしました)の機会に恵まれ、程よく授業や研究とのバランス取りになったと思います。
おわりに
後半は楽しい写真が続きましたが、改めて、留学がしんどい時にどうすればいいのか?ということに対しては、
留学に来た本来の目的を思い出し、メリハリをつけて重要なことにエフォートを割く
キャパシティぎりぎりまで無理をせず、余白を持たせる
その余白で海外生活を楽しむ(外に出ましょう、人にも会いましょう)
困った時は周りの人(身近な人から経験者、似たような境遇の人)を頼る
という点がサマリーになるかと思います。
なお、スタンフォード教育大学院では、1年で修了するプログラムに参加していたので、先述のとおり、こうした工夫もあって2024年の夏に無事に修了しました。
卒業して色々感じたことについても、下記の記事でまとめています。ご関心ありましたら、ぜひそちらもお読みいただければ嬉しく思います。
今回もお読みいただきありがとうございました!それでは。
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