その映画には14歳の頃の僕がいた。(『リリイ・シュシュのすべて』を観て)
今まで観た映画のなかで一番好きな作品は『リリイ・シュシュのすべて』(2001、日本)だと思う。
知らない方に簡単に内容を紹介する。
主人公の蓮見は14歳の中学生。かつての親友である星野にいじめを受けながらも、窒息しそうな毎日を送っている。救いはカリスマ的人気を誇る歌手のリリイ・シュシュだけ。ある日、蓮見は星野に命じられて、同級生の女子、津田の売春の監視役をすることになるが・・・。
あらすじを聞く限り、多くの方に受ける映画とは言いがたい。
僕はちょうど映画に出てくる市原隼人や蒼井優と同世代である。たぶんネットでこの映画の評判を聞き、観たいなと思っていたときにちょうどTUTAYAの新作コーナーに並び始めた。映画の中の登場人物達は14歳。僕は15歳で不登校だった。
すぐには観なかった。そのあまりのリアルな物語に、今観たら心が耐えられないだろうと思ったからだ。だから、僕がこの映画を観たのはそれから2年後の17歳のときである。
映画は約2時間半あったが、僕はそれを続けて3回観た。
その映画は、僕が14歳のころに観た景色や気持ちをそのまま表現していた。岩井俊二監督は思春期をそのまま撮っているのだ、と思った。
もちろん僕の中学生時代にはこの映画で描かれているような、いじめや暴力はなかった。むしろ、よくある中学生の日常だったと思う。でも、僕は自分の日常の裏側にこの映画に出てくる暴力に近い何かをいつも感じていたのだと思う。だから、登場人物(特に主人公の蓮見)の気持ちをよく理解できた。
20歳になった頃、僕はこの映画の撮影場所の一つである栃木県足利市を訪れた。印象に残っているのは、蒼井優演じる女の子、津田が自殺をする場所の鉄塔を見に行ったときのこと。大きな川(渡良瀬川)と広い土手があり、その川に沿うように巨大な鉄塔が延々とあった。1月だったので風は強く、土手を歩く僕を、さえぎるもののない風は容赦なく打ち付けた。
田舎町なので空気は澄み、空はどこまでも青いが、そこには人の気配はない。
こんなところで命を絶ってしまった架空の女の子のことを思い、やりきれない思いを持った。
大人になった今でも、僕はなぜかこの映画を数年に1回は見返してしまう。蓮見が田舎道でリリィ・シュシュのポスターを眺めるシーン、“亜麻色の髪の乙女”が流れ、津田が川に入るスローモーション、蓮見と津田が合唱中に見つめあうシーン、どれも僕がかつて中学生のころに見た景色や空気とどこか似ているのだ。
思春期を過ぎてだいぶ経つが、僕にとって『リリイ・シュシュのすべて』は14歳の頃の自分を思い出させてくれる映画だ。その当時、僕の周りの空気は今よりずっと冷たく透明だった。でもそれと同時に、冬の水のように澄んでいた。僕にとって14歳は人生のなかで最も自分を見失っていた時期だ。あの頃に戻りたいとは思わない。でも、あの頃感じた気持ちや、その時の友達、見た風景は忘れたくない。どれもこの映画の一コマ一コマのように美しいものだったから。
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