何が正しいかはわかっている。だがその道を選ばなかった。正しい道は困難だからだ。(セント・オブ・ウーマン 夢の香りより)
久しぶりに「セント・オブ・ウーマン 夢の香り」を観た。1992年の作品で、盲目の元軍人を演じたアル・パチーノがアカデミー賞主演男優賞を受賞したことでも有名な作品である。
簡単にストーリーを紹介すると、名門高校に奨学金で通う苦学生のチャーリーと、人生を半ば捨てたような暮らしを送る盲目の退役軍人のフランクが出会い、数日間を共に過ごす中で互いに人生に影響を及ぼす物語。学校でトラブルに巻込まれ、校長からハーバードへの推薦をネタに取り引きを迫られるチャーリーは、それに応じれば友人を売ることになるし、拒否すれば退学になると悩んでいた。一方、友人は裕福な父親に泣きつき、自分だけが助かろうと画策していたがチャーリーは友人を信じている。純粋なチャーリーが損をすると見越したフランクは公開懲戒委員会に飛び入りし、最後に素晴しいスピーチをしてチャーリーを助ける。
私が心打たれたのはフランクのスピーチ。
「この学校のモットーは”告げ口をして自分の身を守れ”か。ケツに火が付くと、ある者は逃げ出し、ある者は踏みとどまる。ジョージは逃げ出し、チャーリーは踏みとどまった。なのに君らはジョージを誉め称え、チャーリーを罰するのか。<中略>
この学校の名を汚しているのは君らだ。君(校長)は言った。”この学校は未来のリーダー育成校だ”と。根が腐っているのに、どんな木が育つのかね?チャーリーは自分の得のために友人を売る人間ではない。それが人間の持つ高潔さと勇気だ。リーダーが持つべき資質はそれだ。
私も何度か人生の岐路に立った。何が正しいかはわかっている。だがその道を選ばなかった。正しい道は困難だからだ。彼も人生の岐路に立った。そして正しい道を選んだ。彼の未来を潰さないでくれ。」
そう言えば、小学校でも中学校でも「自立」「自主自学」などという言葉があったが、実際には「右向け右!前へならえ!」と言われ主体性を奪われることが多かった。社会人になってからも同じだったし、最近では「起業家精神を持った社員がいない」と嘆く経営者もいるようだが、端から見ればトップダウンのピラミッド型組織なのだから、そりゃそうだろうと思ってしまうようなこともある。
本当に理念やモットーを貫くなら、かなり険しい道を進まなければならない。なぜなら、理念やモットーはそう簡単に貫けるものではないからこそ、言語化して掲げているのだと私は思う。目指すべき北極星なのだから、遠くにあってなかなか手が届かないのは当然だ。
本当にそこを目指して、人と違うことをして、耳の痛いことも時には言って、それを貫こうとする人は、ピラミッド型で考えたら扱いにくい人だと思う。だからといって排除してしまうなら、目指すものに手が届く日は来ない。覚悟を持って、そういう人を大事にできなければいつか終わりが来るということ。日本は今、そんな岐路に立たされているのかもしれない。
組織はともかく、自分自身は正しい道を選びたいものだ。現実問題、その道はかなり険しく、増して家族がいれば尚更険しい… …そんなことで悩んでいる最中にアル・パチーノの迫真の演技と、フランクのスピーチと、クリス・オドネルの美貌が私の心に刺さったのでした。